番外.鳥籠3

 カツン…カツン……

 見覚えのあるその通路に、今度は一人分の足音だけが響いていた。
 独特の空気、特異な気配……相変わらず他の生気を感じられないその空間――

 その通路を一定の速度で進んでいく足音は、には遠い世界のことのように聞こえていた。
 そこに自分の意思などというものは欠片も存在しない。
 自分の身体が自分の意思を離れて動かされるという不快感と、その相手に対する嫌悪感があるだけだ。

≪ここは我の箱庭。そなたもすぐに気に入るだろう≫

 相変わらず背中を冷たいものが這うような声音。
 冗談じゃない、と思う。

 けれど、自分では瞬き一つ思い通りにならない現実に、は内心ため息をついた。

(寒い……)

 降り続く雪も冷たい空気さえも届かないその場所で、は確かに寒さを感じた。

(この前は…平気だったのに……)

 隣にアルベルが居るかどうかの違いがこんなに大きいことを、はその時深く思い知った。








 フェイトは、ただ驚いていた。
 世界を救った英雄だなどと銀河連邦に囃し立てられ、まるで逃亡者のような生活を、彼も、幼馴染のソフィアも、反連邦であったマリアも送っている。
 いずれは政治というものに否が応にも関わらなければならない時が来るのかもしれないが、今はゆっくりと世界を見たい――それがフェイトの希望だった。
 その為、新政府や問題事にも積極的に顔を出しているクリフに時々くっついて回っている。
 今回はたまたまエリクールの近くまで来たので、久しぶりに皆の(特にの)顔が見たいと思って寄ったのだが……

 いつも冷静で穏やかな……ましてアルベルに対してはいつも従順な姿勢を取ったところしか見たことがなかったフェイトは、その二人の口喧嘩などという見慣れないものに呆気に取られていた。

 確かに彼らとはこの一ヶ月強離れていたけれども、その間に一体何があったのだろうと思う。それとも、彼らにとっては日常茶飯事で、ただフェイトが知らなかっただけなのだろうか。
 しかし、その最中に起こった出来事は間違っても日常などでは無かった。

 突然現れた正体不明の亡霊――それに捕らえられたがかき消えるように連れ去られた直後、真っ先に動いたのはアルベルだった。
 踵を返してだっと駆け出したその腕を、とっさにクリフが捕まえる。

「ちょい待て。何だってんだ、アレは!」
「チッ…説明してる暇なんかねぇんだよ」

 離せと言ってクリフを振り払ったアルベルの手を、今度はフェイトが捕まえた。

「待てよ、アルベル。が連れて行かれて心配なのは分かるけど、それは僕たちだって同じだ。見たところ相手は中々厄介そうだったし、ちょっとでも戦力があった方がいいんじゃないか?」
「……フン。あんなクソ虫相手の戦力なんざ、俺一人だけで十分なんだよ」

 頑固にもそう言い張ってあくまで一人で行こうとするアルベルに、フェイトは眉を顰めて捕まえていた腕を離した。

「はぁ……分かったよ。だけど、ならこんな時こそ慎重に考えるべきだって言うと思うけどな。それに……アルベル、お前の居場所が分かってるのか?」
「……心当たりならある」

 答えるまでに少し間を要したその返答を、フェイトは見逃さなかった。
 おもむろにクォッドスキャナーを取り出し、アルベルに見える位置で起動する。

「心当たり…か。僕なら正確に居場所を特定できるんだけどなぁ」

 同じ型のクォッドスキャナー……これがお互いのそれの座標を探知できるというのは、以前に実証済みだ。
 アルベルはじっとフェイトの手元を見て、嫌そうに眉をしかめた。
 のスキャナーを見たことがあったのだろう。フェイトの言葉が本当だと裏付けられて、盛大に舌打ちする。

「チッ……来い。移動しながら説明してやる」

 不本意だとありありと顔に出しながら今度こそ背を向けたアルベルを、顔を見合わせたフェイトとクリフが追った。

 しかし、てっきり漆黒の軍を動かすのかと思っていたフェイトは、そのまま修練場を出たアルベルに些か拍子抜けする。

「漆黒は動かさないのか?」
「無駄な死体を増やす趣味は無い」

 至ってシンプルな返答に、クリフなどはそれもそうだと言って笑っていたが、アルベルからを攫った相手――ロメロのことについて聞くとフェイトは思わず声を上げた。

「レアレイズだって!?……どう見ても普通じゃ無かったけど、まさかこんな所にも居たなんて……」

 だとしたら何らかの身体機能が優れているということになるが、あのロメロの場合は見るからに普通の人間とは違っていた。
 バグというだけあって、結構めちゃくちゃなプログラムも存在するのだろう。

「ちょっと待って――その地下洞は迷路みたいに複雑なんだろ? それじゃあ余計に人数を送り込んだ方がいいんじゃないのか?」
「だから、その為にお前らを連れてきたんだろうが、阿呆」

 正確に居場所を知る――確かにフェイトのクォッドスキャナーならばそれは可能だ。だったら、余計な被害は出さないでおこうというのがアルベルの考えらしい。意外に部下思いな一面を垣間見て、フェイトは少し見直した。

「あー…待てよ。地下洞ってことは、もしかすっとあちこちに今は使ってない出入口があったりすんじゃねぇのか? 例えば城が落ちた時の緊急脱出路としてだとか――」

 流石こういった経験を重ねてきているだけはあるクリフの意見にアルベルもすぐに頷いた。

「ああ、現に最初に見つかったのは城から伸びてたやつだ。その先にまだいくつか出入口があるだろうって話だが、まだ見つかってねぇ」
「それなら、疾風を飛ばして空からその出入口を探すってのはどうだ? うまくいきゃロメロの裏をかけるし、包囲するにも有効だ」

 フェイトにもこれはクリフにしては中々良い策だと思えたのだが、アルベルはなぜか考え込んでしまった。
 そして、返って来たのは否定の言葉。

「いや……いま疾風を出すのはマズイ」
「なんだ? 何か理由でもあんのか?」

 クリフの言葉に、アルベルは曖昧に頷いた。
 そしてじっと言葉を待っているフェイトたちに気付くと、意味有りげにニッと口元を歪めた。

「今度の疾風団長は随分と無茶らしいからな」










≪卑小な人間ごときが…懲りもせずに現れたか≫

 地下洞の奥――先日よりももっと深く進んだ先で、その声は再び響いた。
 フェイトとクリフを伴って来たアルベルは、静かに刀を抜いて構える。

 この前ちらりと相まみえた時の感覚では、油断は出来ない相手であることも確かだが勝てないような力量でもないと感じた。
 その感覚が間違っているかどうかは、すぐに分かる――

 戦闘の前独特の高揚感が沸いてくるのを感じる。
 だが、それよりもただ静かな怒りがアルベルを支配していた。

「――アイツを返してもらおうか」

 告げた声音は、何の抑揚も無く……余計にアルベルの怒りを露にしていた。
 それに対して、まだ姿を現さないロメロは低く笑う。

≪あの者は既に我のものだが、そんなに会いたいのならば会わせてやろう≫

 空気が揺れて、通路の先の空間が揺らいだ。

 そこに現れたのは、ロメロと共に消えた――……ただし、その瞳は虚ろでうっすらと光っており、手にはいつもの弓ではなくロメロの赤い剣を持っていた。

!?」

 叫んだフェイトの声にも、はぴくりとも反応しなかった。
 その代わりに、その口元がキレイな笑みを描き、低い声音が漏れ出る。

<会いたかった者に会えた感想はどうだ?>

「ロメロ!?」
「てめぇ……」

 であってでないもの……ロメロの声で紡がれた言葉に、フェイトたちは激昂する。

 低く笑いながら自分も姿を現したロメロに、アルベルは素早い動作で居合いの要領で斬り付けた。
 しかし、その刀はロメロの身体をすり抜けて空を切ってしまう。

「!?」

≪我に人間の刃など届かぬわ≫
<先日はこの娘を手中にする為の狂言だったに過ぎぬ>
≪だが、いまの我はと繋がっておる≫
を傷つければ、我も傷つくかもしれぬな>

 ロメロと――二人の口から交互に出る言葉にアルベルは歯噛みする。
 相変わらず悪趣味な趣向に、吐き気がしそうだった。

「卑怯だぞ!」

 堪らず言ったフェイトに、ロメロを宿したは笑った。

<卑怯? もそう言ったな。だが、これにそう謗られるのは我としても本意ではない。だから束の間自由にしてやったのだ>
≪そう、我から逃れられるだけの時間――な≫

「なに……?」

 眉を顰めたアルベルに勝ち誇ったように笑い、ロメロは言った。

≪我が自由を戻してやった間、は持っていた道具を少々弄っておっただけで特に逃げ出す気配も見せなかった≫
<我と共に在る覚悟を決めたのかと聞いたら、愛らしく笑いおったわ>

「……………」
「道具……ねぇ」
「アイツらしい」

 ロメロの言葉をそれぞれに反芻して、アルベルたちは笑った。
 予想していたのと違う反応を示した三人に、ロメロは気分を害したのかようやく笑いを引っ込めた。

<もうよい。貴様らの相手をしているのにも飽いたわ>

 言うと同時にロメロとが一気に間合いを詰めてきて、三人は臨戦態勢を取る。

 赤い剣を持って斬り付けてきたをその刀で押し留めて弾き飛ばすと、アルベルは舌打ちした。
 いくらロメロに操られていようとも、を傷つけることは出来ない。
 ロメロ本体を相手にしているフェイトとクリフも、物理攻撃が効かない為に苦労しているようだ。

「おい、フェイト。あの力を使っちゃどうだ?」

 攻撃の手を止めぬまま言ったクリフに、フェイトは首を振った。

「ディストラクションのこと?――ダメだ。あの位置だとまで巻き込んじゃうよ」

 両親から紋章遺伝子学によって与えられた力――ルシファーを倒す決め手となった破壊の力だ。
 だが、広範囲に渡るこの力は、常に一定の距離を保っているロメロとには使えない。

「クソ、どうすりゃいいんだ!」
に当てるなよ、アルベル!」
「誰に言ってやがる」

 膠着したままの戦況に、三人ともが疲弊してきた時だった。
 背後から独特の機械音がして、三人の横を通過し、それはロメロの体を直撃した。
 エネルギーライフル――カツンと心地よい足音に、フェイトは振り返った。

「マリア!」
「待たせたわね」

 青い髪を靡かせたマリアが、そこに立っていた。
 たった一人で転送してきたらしいが、よくこの場所が分かったものだと思う。
 恐らく、がロメロの言うところの”道具”を使って――連絡を取っていた相手というのはマリアなのだろう。
 挨拶もそこそこに、マリアは敵に目を向けた。

≪また一匹増えたか……次から次へと卑小な輩は数だけは有り余っているとみえる≫
「目標はアレね……」

 ロメロの挑発的な言葉には乗らず、その瞳はまっすぐにだけに向けられていた。

「目標? どういうことだ?」

 クリフの疑問に、マリアは苦笑する。

「昨日から連絡を貰ったのよ。私の”力”が必要だってね。その時におおまかな説明は聞いたわ」
「力? アルティネイションの力が?」

 フェイトと同様に与えられた紋章遺伝子学の結晶――アルティネイション。変革の力。

「あの子の話じゃ、私だけじゃなくてあなたの力もだそうよ、フェイト。――通常の攻撃は効かず、範囲の広い紋章術も使えない――この状況を見ればその意味が分かるわね」

 対象そのものの性質を変えてしまうマリアの力と、圧倒的な破壊力を持つフェイトの力――

「そういうことか」
「チッ……」

 ようやく全てを理解したアルベルは苛立ちのままに前髪をかきあげた。
 ロメロを倒すこと――仲間たちの仇を取ること――それがの望みらしいが、それでまで傷ついてしまっては元も子も無い。

「無茶すんなって言っただろうが、この阿呆……さっさとこっちに来やがれ――!!」

 アルベルと切り結んでいたの虚ろな瞳が一瞬揺れた。
 その機会を逃さず、アルベルはその体を捕まえ、ロメロから引き離す。

にもアルティネイションを使わなくちゃと思っていたけれど、一つ仕事が減って助かったわ、アルベル。――行くわよ、フェイト」
「ああ、いつでもいいよ」

 マリアが差し出した右手の回りに紋章陣が浮き上がり、それはロメロに向かって放たれる。

≪なんだ…? これは……!?≫

 紋章はロメロの回りを取り囲み、発動した。
 最早ロメロの体は透けていない。

「これで終りよ」
を――僕らの大切な仲間を苦しめたんだ。自業自得だよ」

 フェイトが天に掲げた右手から紋章が発動し、それは眩い光を持ってロメロを包む。

≪ぐぁ……こんな…こんな馬鹿な……! 我は永遠を生きる存在! 我は神々の眷属! 我は…死なぬ……!!??≫

 もがくロメロの瞳が大きく見開かれる。
 その左胸には、見覚えのあるダガーが深々と刺さっていた。

「今のあなたは普通の人間と同じ…。観念するのね」

 アルベルに支えられて、弓を構えたは言った。
 弓の弦でダガーを飛ばしたのだろう。
 ロメロの存在が”変革”されて支配力が弱まった為か、の瞳には光が戻っていた。

……なぜだ……そなたは我の眷属であろう。それなのになぜ……≫

 うわ言のように繰り返してに手を伸ばしたロメロを、アルベルの刀が袈裟斬りにしていた。

「人の女に手ぇ出しといて寝言言うんじゃねぇ、このクソ虫が」
「………そういうことです」

 一瞬目を瞠ったは、しかしそれを認めるように苦笑して頷いた。
 絶望に歪められたロメロの顔が次第に崩れ、その存在は塵となって消える。

 地下洞に巣食う濃い闇が払われた瞬間だった。










 修練場屋上――いつもの休憩場所で心地よい風を感じながら、は先日の出来事を思い出していた。

 ロメロを倒し、一旦修練場に帰還したを待っていたのは、仲間たちからの追及とお説教の嵐だった。

「何だって君はそんなに無茶なんだ、!」

 ロメロに地下洞まで連れて行かれたは、体を操られ自由を奪われていた。
 そのままでは何も出来ないと感じ、ダメ元に心中からロメロに話し掛けると意外とそれが通じた。後はもう簡単。何百年も前から生きているとは言え、ほとんど他者との関わりを持っていなかったある意味世間知らずのロメロを挑発することは容易かった。
 そうして束の間与えられた自由で、確かに修練場まで逃げ出すことも可能だったが、相手は神出鬼没の亡霊。それではあまり意味が無い。
 仲間たちの仇を取る為にも、ロメロは必ず倒したい――
 だから、多少の危険は覚悟の上で、マリアとフェイトの力を借りることにしたのだ。

「そうだよね…フェイトとマリアをあてにした作戦はちょっと強引だったよね、ごめんなさい」
「そうじゃなくて!」

 脱力したようにため息をつくフェイトに苦笑して、クリフが助け舟を出した。

「まあ結果的にはうまく行ったんだから良かったじゃねぇか」
「そうね、私も久しぶりにみんなに会えて嬉しかったわ。こういうことでも無い限り、中々顔を合わせられないものね」
「……ソフィアが聞いたらむくれそうだけどね」

 そうやって空気が和むと、後はひとしきりお互いの近況などを話して過ごした。
 自分のことよりも仲間たちの話の聞き役に回っていただったが、ふと思いついたようにフェイトが聞いた。

「そう言えば、アルベル。今度の疾風団長は相当無茶だとか何とかって言ってたけど、それって誰なんだ? 僕たちの知ってる人か?」

 は思わず飲んでいたお茶でむせた。
 苦しそうにしているに、皆の視線が一気に集まる。

「おいおい…」
「まさか……」
「確かに無茶…ね」

 三人の反応に、はため息をついて苦笑した。

「まだ決まった訳じゃないのよ。あー…あと私、・ウォルターになったから」

 ついでのように付け足した言葉と内容に、驚きの声が響いたのは言う間でも無い。


 ふふ、と思い出し笑いをしているところに、後ろから慣れた気配が近づいてきた。

「今度は一人笑いか。沈んだり笑ったり、忙しいやつだな」
「人を危ない人間みたいに言わないでください」

 フェイトたちも帰っていき、地下洞の調査も終り、修練場には平和が戻っていた。
 とアルベルはもう以前のように喧嘩中という訳ではなかったが、お互いの忙しさの為にほとんど言葉を交わしていないのが現状だ。
 そうしている間にも、明日はのウォルター邸への引越し、そして今日は例の返事の為に王都に向かうことになっていた。

 副官であるが引越しの準備に追われていた為、相当忙しいはずのアルベルは、それでも王都にも同行すると言う。そして今もわざわざ会いに来てくれた事には素直に微笑して、そして少し意地悪な質問をなげかけた。

「アルベル様って、結構独占欲強いんですね」

 思わぬ言葉に動きを止めたアルベルは、何を言い出すんだという目でを睨む。
 歪みのアルベルのその眼光を前にして、は嬉しそうに笑った。

「だって、ロメロを斬ったのは、私に手を出したから――なんでしょう?」

 気まずそうに顔を歪めたアルベルに、は笑みを深くする。

「ロメロに捕まってあそこに居た時、すごく心細かったんです…。私、束縛されるのとか大嫌いですけど――だけど、アルベル様だったら構わない。……私をちゃんと捕まえててくれますか、アルベル様?」

 アルベルは目を瞠った。
 普段は冷静で落ち着いている癖に、時々こんな風にひどく脆くなるのだ、という少女は。
 だが、弱い者は嫌いな筈のアルベルなのに、それを不快だとは思わない。

 束縛が嫌いなのにアルベルにそれを求めると、弱さを憎みながらもそれを見せるに愛しさを感じるアルベル――

 今にも泣き出しそうなの瞳に、アルベルは笑った。

「今更逃がさねぇんだよ――

 欲しい答えをくれたことに、名前を呼んでくれたことに、は心から微笑んだ。

 そう、前に進むことを教えてくれたのは、アルベルだから――

「――行きましょうか、アルベル様。王都へ――」

 再びこの地で、新たな一歩を踏み出してみようか。

「私の場合は、空かな…」
「何か言ったか?」
「…いいえ、何でもありません――さあ、ぐずぐずしてると置いてっちゃいますよ、アルベル様!」

 独り言を振り払うように駆け出して、は空を見上げた。
 青い空はどこまでも澄んでいて、あの中を自由に飛びまわれたらどんなに気持ちよいだろうと思える。

(本当に、私に務まるのかな……)

 考えかけて、慌てて首を振った。

 出来るか出来ないかではなく、自分が何をしたいのか――……
 後先考えずに走ったって、何らかの結果は必ずついてくるのだ。
 失敗しても、挫折しても、足掻いて、足掻きぬいて、また走り出せばいい。

 そして、走るだけの力が無くなった時には……

「アルベル様、早く――!」

 振り向いて、は愛しい人に笑顔を向けた。

 この人が傍にいてくれる限り、どんなことがあっても乗り越えられるだろう。
 一緒にいれば、怖いものはない。
 疲れたなら、羽を休めればいい。

 ようやく安息の場所を手に入れたのだ。

 愛しい人の腕の中という――居心地の良い鳥籠を。











05.5.21
CLAP