24.Auspicio - 予兆 -

 ドンの死後、数日ぶりに戻って来たダングレスト。

 偉大なドンを失った影響は大きいに違いなく、街は大丈夫なのだろうかと心配しながら歩いていた一行が遭遇したのは、予想だにしない光景だった。

「あらぁ、レイヴンじゃないの」

 色めいた艶のある声に、は反射的に半眼になる。
 通りで話しかけてきたのは、蠱惑的な肉体を露出度の高い服で包んだブロンドの美女だった。

「およ、お久しぶりね」
「ホントよ~。こんな時でも相変わらずフラフラしてるのね。こっちは沈み込むお客の相手で毎日大変なのよ~?」
「あー、そりゃ確かに大変ね。何か迷惑掛けることがあったら、ユニオンの方に言ってちょうだい」
「ええ、そうするわ。……ねぇ、今夜は疲れた私を慰めてくれる?」

 胸を寄せて谷間を作り、レイヴンの腕を取って押しつけ、トドメに下から潤んだ目で見上げる。
 わざとらしいくらいの"勝負技"に、レイヴンはいつもの笑みを浮かべて相手の腕をするりと外した。

「残念だけど、俺様これでも忙しくてね。また今度ね」
「もう、つれないんだから」

 にこやかに手を振って別れる二人……を、少し後ろから呆れて眺める凜々の明星一行。

「レイヴンも歩けば女の人に当たる……」

 ぼそりと言ったカロルの台詞に、全員大きなため息をついた。
 街に入ってから広場を通ってユニオン本部まで……その僅かな間にこれと似たようなことが五回も六回もあれば、辟易して当然だろう。

、良くレイヴンと一緒にいられるね……」
「……まあ、めんどくさいキャッチだと思えば何て事無いよ」

 カロルには苦笑して返してから、は自分の言葉に一人首を捻った。

 先日は街の様子もそれどころではなかったが、最初にダングレストに来てレイヴンと合流した時は、連れ立って歩いていると必ずと言っていいほど女性から声を掛けられた。
 中には連れのにあからさまに嫌みを言ってくる人も居たが、実際呆れこそすれ、特に何とも思っていなかったはずだ。
 だが……

(何だろう……何か、すごいむかつくんですけど)

 今日は前とは違って、こういうことがある度に正体不明のムカムカが腹の底から沸いてくるような気がする。
 ドンを偲んで胸を痛めるべき場面で、一々水を差されるからかもしれない。

 そう思っていた所に、また新手が現れた。

「レイヴン! ようやく帰ってきたのね!」

 今度は派手な巻き毛の女性で、出会い頭に抱きつくという中々のツワモノであった。
 また沸いてきたムカムカに蓋をしようと、は極力その女性の方を見ずにいたのだが……

「あら? あらあら? 後ろの女は何なのかしら?」

 よりによってわざわざ目の前まで来てジロジロと見られ、女性陣は思わず半歩後ずさった。

「こっちの女は……いかにもレイヴンの好みっぽいけど、そういう関係じゃなさそうね」
「あら、鋭いのね」

 ジュディスの前できっぱりと言われた言葉に、彼女は艶然と笑んでかわす。
 美人は女性からの妬みにも慣れているのか、流石のあしらい方だ。

「それから……お子様は論外として」
「何ですって!?」
「えっと……」
「失礼な奴なのじゃ!」

 次いで、抗議するリタ、エステル、パティの上をスルーした視線が、ピタリとの前で止まった。

「アンタ……アンタ、レイヴンのこと好きでしょ!」

 ビシリと突きつけられた指に、パーティ内に電撃が走った。

「…………は?」

 思わず絶対零度の声で聞き返したを無視して、仲間達は声を上げる。

「ええぇぇ!? 、そうだったの!?」
「そうなんです!?」
「ふふ、びっくりね」
「うーむ、意外だったのじゃ」
「いやいや、そりゃ趣味悪すぎってもんだろ」
「ちょっ……、アンタ正気!?」

「……ちょっと待って、みんな冷静に……」

 頭痛のする頭を押さえて言おうとしたに、巻き毛の女性は更に続けた。

「隠したって分かるわよ、お嬢ちゃん。色気の欠片もない小娘の分際で私のレイヴンに手を出そうなんて百年早いわ。大人の色気を身に付けてから出直してらっしゃい!」

 ――ビキリ

 自分の米神が引き連れる音を聞いたと思った。

「……"小娘"?」

 見たところ、目の前の女性は明らかに自分より年下だ。
 化粧が濃すぎてはっきりとは分からないし、肌もダメージ受けまくっているが、見た感じはせいぜいユーリたちと同じか下くらいだろう。
 その年下の厚塗りケバケバ女に、小娘だの色気が無いだのと言われる筋合いは……

「お…落ち着け、。ここはほら、冷静にだな……」
「ユーリ、邪魔するなら今日のデザート抜き」
「ゲッ……」

 が自分よりも年上だと知っているユーリが一早く宥めに来たが、それを速攻で黙らせたは、いや待て待てと深呼吸した。
 相手は、メイクの仕方も礼儀も知らない……リタ流に言うと"ガキんちょ"だ。ムキになっては大人としての品性が疑われる。
 ここは適当に受け流してとっとと目的地へ向かおうとが口を開き掛けたその時……

「し…し……」
「レイヴン? どうかしたんです?」
「しし…知らなかった! ちゃんがそんなに俺様のことを想ってくれてたなんてっ……!」

 ――ピキピキ

 レイヴンが大袈裟に感極まって声を上げ、この胸に飛び込んでおいでー!と手を広げた瞬間、は自分の周りのオーラがどす黒く変化したことを自覚した。
 いつも通りの道化た言葉と、空気が読めない訳でも無い癖に違うと分かっていて敢えてそんなことを言う態度が、かつて無いほどに苛立ちを与えてくれたのだ。

「……レイヴン」

 我ながら驚くほどの地を這うような声音に、仲間達はひぃっと息を呑んだ。
 流石のレイヴンも、笑顔が引き攣った気がする。

「私、デラックスダングレトッピングのクレープが食べたい」
「へ? あ…ああ、もしかして早速デートのお誘い? じゃあ後で一緒に……」
「今すぐ」

 満面の笑みの儘くるりと振り向けば、顔を合わせたレイヴンもこれは本当にヤバイとようやく理解できたらしい。

「今すぐ買って来て。全員分。レイヴンのおごりで」
「いや、でも……」
「レイヴン?」
「は…はいぃぃぃ! 今すぐ買って参りますぅぅ!!!!」

 ざっと青ざめたレイヴンが猛スピードでクレープ屋へと駆け出したのを見送った後、巻き毛の彼女には丁重にお引き取り願い、はようやく息をついた。
 ユーリは最早クレープを食べられることだけで喜んでいるし、他の面々も取り敢えず円満に片が付いてほっと一安心していたので、こういうことはさっさと忘れるに限る。

 ついでに今までのムカムカも無かったことにしよう……そうしよう。

 一人密かに頷いたは、無事レイヴンの手から献上されたクレープに勢いよく齧り付いたのだった。





「お待ちどおさまでしたー!」

 酒場・天を射る重星――以前特別室でがドンに初めて会った、ダングレストでも有名な酒場である。

ちゃーん! 七番テーブル上がってるよー!」
「はーい! あと追加で、二番さんにオタオタ鍋3つお願いしまーす!」
「あいよ!」

 威勢の良い声を張り上げてフロアを駆け回るは、何を隠そう、現在この店でホールバイトの真っ最中だったりする。

 朝方ダングレストに入ってユニオンへと顔を出して、予想通り混乱している様子は痛ましかった。
 ドンの孫であるハリーは次期首領になることを拒んでいるらしく、彼の気持ちも分からないではないが、頭が居ない組織など立て直すどうこう以前の問題だ。

 どうにかならないものかと仲間達と話しながら、ランチタイムに天を射る重星を訪れた。
 かき入れ時というのを差し引いても忙しさに目を回している店員に聞くと、いつものホール係が不在で手が足りていないから手伝ってくれないかと持ちかけられ……

「ちゃんと報酬も出すわよ?」

 その一言に、は大きく挙手した。
 あまりの勢いに訝しむ仲間たちは、「だってここに居たらいろんな人の話聞けるし、それに……労働に見合ったお金を貰えるんだから、暇つぶしには丁度いいじゃない!」の一言で、みんな納得してくれた。
 どうせもう今日は、ダングレストで装備を調えて、街やユニオンの様子を見ようということになっていたのだ。
 それなら、目的も果たせてお金も稼げて一石二鳥!時は金なり!
 そんなの主張は、凜々の明星のお財布係としてあっさり認められたらしい。

「はぁ……まったく、それなのに…………」
ちゃーん! 料理詰まってるよー!」
「はぁーい! 今すぐー!!」

 思わずため息をついたは、呼ばれるままに走りながらも、心の中ではため息の連続だった。

 真っ先にバイトに志願した理由は、実はもう一つある。
 朝方レイヴンのせいでムカムカした気分を、久しぶりの労働で紛らわせようと思ったのである。
 体を動かすホール係は、まさに気分転換にぴったりだと思ったのだ。
 忙しい店内で注文と料理片手に駆け回り、いろんな人と話をして、心地良い労働の疲労で泥のように眠ってしまえば、きっと翌朝には正体不明のムカムカも治っているに違いない。

 だからバイトに精を出そうと思ったのに……なのに、である。

「あらぁ、マリンちゃんお久しぶりねー」

 仲間たちは昼食を取った後、それぞれ街の散策に出たというのに、問題のレイヴンだけがなぜかずっと店の端のテーブルを陣取って居座っていた。
 しかも、酒を片手に暇そうにぶらぶら椅子を揺らしているだけなので、顔の広い彼は男女問わずしょっちゅう声を掛けられている。……女性の方が圧倒的に多いのだが。
 お陰で、謎のムカムカもぶり返している。

「今日も可愛いわー、いやいやホントだって!」

 声を掛けてきた知り合いの女の子にレイヴンは愛想笑いを浮かべて、隣の席に座った彼女とニコニコと見つめ合っている。

 ――ズキリ

 たまたま見てしまった光景に胸が引き絞られるように痛み、は驚いて体勢を崩した。

「おっと、大丈夫かな、お嬢さん」
「わっ……す…すみません! お陰でお料理落とさずに済みました」
「いえいえ、怪我が無くて良かった」

 近くに居た客が支えてくれたお陰で手に持ったままだった料理は死守出来て、は慌てて礼を言った。
 振り向けば、中々爽やかなお兄さんが人の良さそうな顔で笑っていて、良い人で良かったともほっとした笑みを返す。

 ふと視線を感じて顔を上げれば、今まで隣の女の子と笑い合っていたはずのレイヴンと目が合い、は反射的に思い切り逸らしてしまい、マズイと思って目の前の客に話しかけた。

「本当にありがとうございました。お礼に後で何かサービス持ってきますね!」
「いやいや、そんなに気を使わなくてもいいよ」
「でも、お話し中のところを邪魔してしまったみたいですし……」
「ああ、いつも通り帝国のこと話してただけだから。まあ、愚痴みたいなものだよ」
「帝国?」

 この街に居るからには、ほぼどこかのギルド員で間違い無いだろう。
 帝国とは犬猿の仲である。
 ユニオンがきちんと機能しないことで、帝国との関係も上手くいっていないのだという話を午前中に聞いたばかりだったので聞き返せば、彼はああとため息をついた。

「この前みたいに……今度は騎士団が攻めてきたら、今のダングレストで大丈夫なのかなってさ」

 この前とは、戦士の殿堂<パレストラーレ>との衝突のことだろう――ドンの命で事無きを得た、あの時の。

「アレクセイはユニオンが弱っている隙を逃すような奴じゃないらしいしな」
「――アレクセイ?」

 どこかで聞いたのと似た名前に、は首を傾げる。

「君みたいな子は知らないかな? 騎士団の団長だよ。俺たちからすれば敵の親玉ってとこかな。前に怪鳥に襲われて騎士団が動く要塞出して来た時もこの街に来てたらしい。我が物顔で入り込むなんて……」

 その後も一通り彼の"愚痴"とやらを聞き、は仕事に戻った。

 ちらりと視線を向けると、レイヴンはまた別の女の子と話していた。
 騎士団の団長か……と真剣に考えようとしていたのを邪魔されて、はぶんぶんと首を振る。

(……無視だ、無視!)

 いないものと思えば良い。
 自分にそう言い聞かせて、は仕事と聞き込みに専念した。

 いろいろな客に話を聞いたが、ドンやハリー、帝国評議会と帝国騎士団の話は良く出て来た。
 中でも、アレクセイ・ディノイア――騎士団長の話は、にとって引っかかりを覚えるのに充分だった。
 帝国の上流貴族出身で、銀色の髪らしいという……

(……"アレク"セイ……まさか……)

 アレクのフルネームさえ聞かされていないが呆然としていると、不意に強く腕を引かれた。

「おっ、姉ちゃん、新入りだな? こっち来て酌してくれよ!」

 いかにも荒くれた巨漢で、既に酔いが回った二人組の男だった。
 一目で厄介な客だと分かるタイプだ。

「新入りというか臨時なんです。ご注文がまだでしたら今日のオススメをお持ちしましょうか?」
「おう、気が利くじゃねーか! 酒もたっぷり頼むぜー!」

 オーダーを通す為にカウンターに戻ると、店長の女性が気遣わしげに声を掛けてきた。

「大丈夫、ちゃん? あいつらはここらでも鼻つまみの荒くれ者なのよ。貴女は臨時だし、何なら今日は追い返しましょうか?」

 はきょとんとして、まさかと声を上げた。

「私なら全然大丈夫ですよ! それよりもあの人達、お代踏み倒すとか、そういう悪行も働くんですか?」
「え? いえ、そういうことは今まで一回も無かったけど……でもね……」
「なら問題なしですね。――カモりましょう!」

 ポカンと目を点にした店長を尻目に、は大量のオーダーを通した。
 勿論、高いものばかりである。

「ちょっ…ちょっと、ちゃん、カモるって……」
「ちゃんとしたもの出してちゃんとしたお代貰うんですから、鴨にするっていうと語弊があるかもしれませんけど……オススメでいいって言ったのは向こうなんで」
「う…うーん、そりゃあそうだけど……本当に接客お願いして大丈夫?」
「酔っぱらいは慣れてますから、大丈夫ですって。厄介そうな人達なので、たくさんお金落として貰わなきゃ割に合わないし」

 何度も大丈夫かと念を押されて請け負っただったが……料理を運び尽くした頃には若干後悔していた。

「おう、姉ちゃん名前教えろよ。何ならオレの女にしてやってもいいんだぜ?」
「う…うふふふふふ、ご冗談をー」

 注文される酒も途中からお茶に変えていたというのに、流石札付きだけあって、男達はしつこかった。
 君子危うきに近寄らず――後悔先に立たずである。
 この調子で、何度もかわして何度も絡まれるの繰り返しだ。

「何だ何だ、冷たくするなよ。このオレこそアレクセイみたいな悪の手からこの街を守ってやる救世主だぜ?」
「え? アレクセイ?」
「そうよ、あの変な研究までしてるっつー怪しい……」

「――はーい、そこまでー」
「レイヴン!?」

 の二の腕あたりを掴んでいた男の手は、いつの間にか席を立ったレイヴンによって背中に捻り上げられてた。

「なっ…何しやがる!!」
「お前は……ユニオンの……!」
「あらら、俺様を知ってるなら話が早い。目の付け所はいいけど残念ね、この子は俺のなの」

 店のあちこちから野次や冷やかしが飛んで、は目を瞠って反論しようとしたが、先手を打って笑顔で振り返られた。

「ね? ちゃん?」

 ぐっと言葉に詰まったが、ここは頷いておくのが一番穏当だ。

「そ…そうなの。ごめんなさい、お客さん」

 その後、白けちまったと言って席を立った男達は、告げられた会計の額に目を剥いたが、レイヴンの一睨みのお陰で無事に払って帰って行った。

「……レイヴン、助かったのは事実だけど……」
「でしょでしょー。お礼はちゅーでいいわよー!」

 そう言って肩に置いてきた手をパチンと叩いてため息をつく。

「そうじゃなくて。大体、なんでずっと居たの? 皆みたいに自由行動すれば良かったのに」

 そもそもの疑問を口にすれば、レイヴンは目を瞠ってため息をついた。

「いやいや、だっておっさん、ちゃんの護衛よ? いくらドンの行き付けの店でも、ここはダングレストよ?」

 本当に分かっていないのかという風に問われて言葉に詰まったに、レイヴンは更に言葉を重ねた。

「可愛い女の子に一人で接客なんてさせられねーって」

 今度こそは言葉を無くした。

 ずっといろんな女の子と話してた癖にとか、一人だって平気だったとか、これで少なくともこの店では変な噂が広がってしまったじゃないかとか……言いたいことはいろいろあったが、どれも言葉に出すことは無かった。

 そんな風に心配して貰ったことが、純粋に嬉しかったから。

「――――ありがと」

 だからは取り敢えず短いお礼を言って、残りのバイト時間中の通りすがりに、無言でおごりの鯖味噌を出しておいた。
 我ながら素直じゃ無いが、何だか今日はいろいろありすぎて素直にいつものような笑顔を向けるのは戸惑われたのだ。

 ――「この子は俺のなの」

 不意に先ほどのレイヴンの言葉が蘇ってきて、の心臓はどきりと跳ねる。
 そのことに、自分自身が一番狼狽した。

 あれはその場凌ぎだと分かっている。まして女好きのレイヴンの言葉を鵜呑みにするなんて馬鹿げている。

「保護者で仲間だもん」

 口の中で小さく呟いて、抱いてしまった小さな予兆を振り切るように首を振った。


 





「――はい、コレ!」

 一日限りのバイトも無事終わり、夜になって仲間達が迎えに来た所に、店長がに大きな包みを差し出した。

「これは?」
「いろいろあったけど、今日はなんと記録的な売上を叩きだしたのよ! ちゃん、ここで正式に働かない!? ね、そうしましょ! この制服着てね!」

 手付け金とばかりに『制服』と言った包みを押しつけてくる店長に、は苦笑いした。

「ごめんなさい。一日バイトならともかく、ずっとはちょっと」
「そうなの……残念だわ。あの荒くれの華麗な捌き方といい、絶対素質あるのに」

 肩を落とす彼女の言葉に、ユーリから「お前何やったんだ」と呆れた視線を向けられ、は大急ぎで話を変えた。

「あ…あの、それでこれって制服だったんですか?」
「そうなの。貴女用に大急ぎで特注したのよ。また手伝ってくれるなら、是非貰ってね」
「それは勿論、バイトは構わないですけど……」
「折角だから着てみなよ、!」
「そうですね! 私も見てみたいです!」

 カロルとエステルに促されたは、気恥ずかしく思いながらも着てみた。
 そして……

「……メイド?」

「あら、とても可愛いわよ、
「似合ってんじゃない」
「うむ! ヤドカリの貝のようにぴったりなのじゃ!」

 ジュディスとリタ、パティにも何だかよく分からないが褒められて、は頬を染めた。
 イイ年した大人が、フリフリスカートにエプロン、ニーハイ、ヘッドドレスというゴシックメイドスタイルをするのは、中々に恥ずかしいものがある。
 可愛い服だとは、も思うのだが。
 それを似合っていると言われるのは微妙だ。

「何でも、その衣装を着ると「おかえりなさいませ、ご主人様」って言うのがセオリーみたいよ」

「………………」
「…………………………」

 店長のとんでも発言に、今まで黙っていたユーリとレイヴンがばっとに視線を向けた。
 無言で見てくるその視線に呆れて、はため息をつく。

「……言わないわよ?」

 今日感じた予兆はきっと間違いか何かに違いない。
 そう思わせるような項垂れ方をするレイヴンとため息をつくユーリに背を向けて、はバイトの給料とメイド衣装、そして『伝説のウェイター』の称号を手に入れたのだった。







120226
フェローに行く前に、レイヴン夢なら一回は書いておきたい「女の人が好き」イベントを入れてみました。
ついでに、「配膳ゲーム」でメイド服も(笑)
次回はフェローでシリアスです!
CLAP