「Are you ready,Guys?」
「Yeah!」
「Let's party! YA-HA-!!」
「Yeahhhhhh!!!!」

「…………………………」

 政宗率いる主力部隊から程近い場所を疾走しながら、はいつまで経っても慣れないテンションにすっかりあてられていた。

 伊達軍の戦いというものは、この世界に来た時に一度目にしている筈だったが、あの時は暗かったり、混乱していたり、死にかけていたりしたので、ゆっくり見ている余裕が無かった。
 記憶にあるのは、用途不明の大漁旗と特攻服に似た陣羽織くらいだろうか。
 極限までテンションの上がった暴走族――兵たちのいつもより気合が入ったリーゼントや剃り込みがそのような印象に拍車をかける。
 その上、それぞれの武器を血走った目で掲げた集団が、英語を喚きながら団体で馬を走らせているのだ――ほぼ全速力で。

(……………怖いよ)

 そう思う自分は、常識人だと信じたい。
 目を疑いたくなるのは、政宗の後ろにピタリと従った小十郎までがその光景に溶け込んでいるということだった。

 はこの世界の戦というものを知らないが、これが普通だとは思いたくない。
 こんな集団が日本のあちこちで暴れ回って戦っているなんて、非常に怖いものがある。怖い、怖すぎる……日本の明日はどっちだ。

「Hey,! そろそろ敵の領地に入んぜ、遅れんなよ!?」
「――はい!」

 現実逃避しそうになった常識人の思考に一旦蓋をして、は政宗の言葉に答えた。
 速度を上げた彼らに習って馬の腹を蹴る。
 戦場となる湖畔が、視界に入り始めた。

(深いことは今は考えない……)

 の初陣となる一戦が幕を開けようとしていた。

14.初陣

なら、どこから攻める?」

 始めに天下の勢力図を見せられてから十日ほど後――
 いつものように夜にふらりとの家を訪れた政宗は、酒を飲みながら簡略式の地図を取り出した。

「いきなり物騒なお話ですねー」

 自身も酒を進めて酔いが回っていた頭で、ここ数日詰め込んだ知識と考えを掘り返す。

「政宗さんは、北から攻めるつもりですか?」
「アー、それが定石だろうな。厄介なのは、やっぱ甲斐と織田か……」
「お隣の越後は放っておいていいんですか?」
「上杉と、甲斐の武田もそうだが、奴らは川中島に固執してるからな。互いの決着がつくまでは、天下取りにゃ本腰入れねーだろ。――ま、そう思ってた矢先に徳川を取られたんだが、ありゃ徳川から仕掛けた戦らしいからな」

 ふむふむと頷いて、はじっと地図を見つめた。
 そして徐に政宗の持っていた小さな駒を取って、地図の一点に置く。

「私なら――ココですね!」
「What? 京?」
「確かに織田も甲斐も脅威ですけど、天下取りは地の利というか……押さえた駒によって決まると思うんですよね。その点、都である京は、各地の交通の要衝でもあり、帝という最大の切り札があります。――所謂、上洛ですね」
「Ah-han……なるほどな。ま、一理あるな」

 そうでしょう、と笑い、政宗の杯に酒を注ぐ。
 その後はいつものように他愛無い話をして時を過ごしたのだが、その日の帰り際、政宗が妙に晴れ晴れした顔でぽつりとこう零した。

「――よし、んじゃ、間を取って前田にするか」

 その時は何のことか分からなかったが、翌日全軍が召集され、告げられたのは、織田の重鎮・前田家の拠点、賎ヶ岳攻略だった。

 冗談だと信じて疑わなかった場での自分の無責任な言葉が関係しているのかと、慌てて政宗を問い詰めただったが、返ってきたのは理路整然とした理由だった。
 曰く、豊臣と明智が離脱した今でも、やはり天下に対する織田の影響力は甚大――そこで、前田を攻めて戦力と気勢を削ることにしたのだと。それに、賎ヶ岳を押さえておけば中四国九州と織田・甲斐との癒着を防げる上、いつでも上洛に踏み切ることが出来る――と言われれば、口を挟む余地は無かった。

(そうだった……政宗さんってこういう人よね)

 いい加減で勢いだけの人に見えて、影では人一倍頭を使って吟味する人なのだ。
 そういった努力をひけらかさない辺りが、『伊達男』の所以なのだろうか。

 政宗の洞察力と知略に感嘆している暇もあらばこそ、大至急で出陣の準備が整えられ、十日目の今日には、奥州から遠く離れた賎ヶ岳の地に辿り着いていた。
 奇襲ということで夜を徹しての進軍だった為、皆疲れていて当然のはずなのだが、ちっともそんな風には見えない。
 むしろ、遠足前の子供のように興奮している。

「おぅ、! どうだ、準備は整ったか?」
「あ、はい、小十郎様!」
「初陣だからってビビッてんじゃねぇ。伊達軍の名に恥じねぇようにしっかりやれよ!」
「はっ…はいぃ!」

 迫力に押されて思わず馬上で直立不動で返事をして猛々しく去っていく小十郎の後ろ姿を見送ったは、力無く苦笑いした。

「このテンションよりも何よりも、ビックリなのは小十郎さんよね……」

 普段から気風の良い兄貴といった部分はあったが、物腰が柔らかく言動も丁寧なので、殊更迫力を感じたことは無かった。
 それがどうだ、ひと度出陣してからの小十郎は、気性は荒く、忠義心は全開になっており、昔気質のヤの付く職業の人のようだ。

「二重人格……いや、こっちが素……?」
「――おら! ぼーっとしてんじゃねぇ!」
「えっ……ぅわっ!」

 呆然と考え込んでいた所に後ろから声を掛けられ、振り返ったの前に唐突に何かが飛んできた。
 反射的に受け取ったは、手に掴んだものと声の主を見比べて目を瞠る。

「政宗さん? これって……」
「――It is given to you.」
「え……?」
「やるって言ってんだよ」
「いや、はい……でも……」

 それは、黒塗りの拵えをした短刀だった。
 拵えの部分には、伊達家の家紋が入っており、一目で価値ある品だと分かる。

「俺が初陣に出る時に、父上から貰ったもんだ」
「父上様から…!? そんな大事な物っ……」
「気にすんな。初陣の守り刀として貰ったんだ――もうオレには必要無いからな。今度はアンタが守って貰いな」
「でも……っ!」
「四の五の言うんじゃねぇ!」

 尚も言い募ろうとしたは、馬首を返した政宗に慌てた。

「政宗さん!」
「弓の間合いは長距離だ。馬上にいりゃ問題ないが、落ちて懐に入り込まれたらどうすんだ?」

 背を向けたままの政宗の問いに、はとっさに返答出来なかった。
 弓以外の武器なんて持ったことも無い。
 例えその手にどんな名刀を持っていたとしても、扱えなければ意味が無いと思う。

「――いいか、。戦で生き残んのは、根性のある奴だけだ」

 はっとして顔を上げると、政宗の隻眼が向けられた。
 戦に出る前、覚悟があるかと聞かれた。
 はあると答えたのだ。

「どんなことをしてでも生き延びろ。間違ってもこんなとこでくたばるんじゃねーぞ!」
「――Yes,sir.」

 守り刀を強く握り締めて自分にも言い聞かせるように答えると、政宗の口元に笑みが刻まれた。
 ククと笑って、手綱を引く。

「Oh-keyー……Are you ready?」
「Any-time OK.」
「Good.オレについて来いよ! Go!!」

 政宗の号令一下、陣を調えていた武将たちも各々の馬に飛び乗り、我先にと鬨の声を上げながら駆け出した。
 も小十郎の部隊の背後に付きながら、戦場に身を投じる。

 賽は投げられた。
 の初陣が、賑やかに幕を開けた。







060827
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