鳥嫌い 1

って絶対サドだよな」
「なっ…何よ、急に」

 旅のある日の小休止中、突然そんなことを言ってきたユーリに、はプリンを食べる手を止めて視線を投げた。

「何って、弱い敵にも容赦無しだろう?」
「そりゃあ、魔物はガルド落としてくれるしー」

 ユーリにとっては"弱い敵"="戦う価値なし"で、見逃してやるといった気分になるのだろうが、にとっては強かろうが弱かろうが戦わないに越したことは無いし、戦う理由と言えば"身を守るため"、"腕を磨くため"、"旅費稼ぎ"である。

 至極真っ当なことを言ったつもりなのに、しかしユーリは呆れたようにため息をつき、尚も食い下がった。

「またそれかよ。まぁつっても、苛められるってタマじゃないだろ」
「んーまぁ、どっちかって聞かれると……苛める側かな」
「ほら見ろ」

 鼻で笑われて、ムッとしたは抗議した。

「し…仕方ないじゃない! いつも一緒にいる相方がドMなんだから」
「ドMって……おっさんのことか?」
「そうよ。怪我して痛くっても我慢するなんて、相当のマゾでしょ」
「言われてるぞー、おっさんー」
「ん? 何がー?」

 必殺・責任転嫁作戦を得意満面で実行中に偶然本人が通りかかって、はギクリと身を強張らせた。

「……青年、ちゃんに何かした?」
「してねーって。が……」
「違うでしょ? ユーリがいきなりあんなこと言うから……」
「――そう言えばちゃん」

 再びユーリとのくだらない言い合いをしていたら、レイヴンが突然重大なことを口にした。

「さっき、あっちの方で渡り鳥の群れ見たわよー」
「え…えぇっ!? どど…どこで!? こっち来そうだった!?」
「んー、近くにはいたけど……」
「っっ……」

 その恐怖情報に、思わず渡り鳥の群れに襲われる地獄絵図を想像してしまい、は思わずぎゅっとレイヴンの服を握ってしまった。

「…………そんなおっさんの服掴まなくても大丈夫よ。方角的に多分遭遇しないから」

 気休めでも何でも、レイヴンに言ってもらうと不思議と安堵できるから不思議だ。
 これ以上迷惑を掛けない為にも、いざというときの為に銃の手入れくらいしておくべきだろう。
 はその考えに頷くと、引き攣らないように笑顔を作って手入れ道具を持っているカロルの元へ急ぐことにした。

「そ…そっか。ありがと、レイヴン」
「どういたしましてー」




「………今のウソだろ、おっさん」

 が目に見えて余所余所しい態度で去ってから、ユーリはため息をついて傍らの男を見た。
 これで大分年上で騎士団の英雄だというのだから、分からない。

「あ、バレちゃった? かーわいいよね、ちゃんのああいう反応」

 悪びれも無く言ってのけるばかりか、それは間違いなくノロケとも言える発言で、本気で怖がってレイヴンに感謝していたが哀れになってくる。

「誰がドMだよ……にだけはドSじゃねーか」
「はっはっはー。………おっさんだってやきもち焼くのよ」
「ん? 何か言ったか?」
「べーつにー」

 子供みたいな言い方で頭の後ろで腕を組んでいる"おっさん"に、ユーリは「やきもちなんて焼く必要ねーだろ」と心中だけで悪態をついたのだった。








好きな子にだけはドSだといい。
CLAP