※このドリは、相方コロンから強奪した貰ったドリイラストを元にして書きました。
夢主のビジュアルがありますので、夢絵が苦手な方はご注意ください。
「隊長」
明らかに自分のことを呼ぶその声に、シュヴァーンは努めて聞こえないふりをした。
「隊長ー」
「……」
別にいつものように「野太い声には応えたくない!」などというふざけた理由では無い。
むしろその声は場違いな程に可憐で、常ならば傍に聞こえていて嬉しい声だ。
けれど、今は……
「シュヴァーン隊長、返事くらいしてください」
「……なんだ」
「聞こえてるのに無視するのは、上官としてどうかと思いますよ。……あ、こういう諫言って、補佐官っぽいよね!」
そう呑気に笑った女性騎士に、シュヴァーンは深々とため息をついた。
女性騎士――いや、本来彼女は騎士では無い。
。
レイヴンとしての彼が護衛し、凜々の明星と共に旅する相手である。
「……勘弁してくれ」
顔を覆って大きなため息をつきつつ、シュヴァーンは心から呻いた。
「私は結構楽しいけど……じゃなくて、光栄でありますが?」
ある日、いつものように仕事場である執務室に行けば、そこには見慣れない女性騎士の後ろ姿があって、疑問に思ったのも束の間、振り向いた彼女がだと知った時の衝撃は生半では無かった。
ご丁寧に、男ばかりのシュヴァーン隊には本来存在しないオレンジ色の女性隊服を身に纏って、普段下ろしている髪は高い位置で結われていた。
驚くシュヴァーンを尻目に、はびしりと騎士の敬礼をして言った。
「本日一日、シュヴァーン隊長の補佐官を任じられましたです。宜しくお願いいたします!」
軽く目眩を覚えたシュヴァーンを一体誰が責められるだろう。
どうやら、彼女の保護者であるアレクセイが、団長権限でもって一日限定のシュヴァーンの補佐官として寄越したらしいのだが……。
「あの人は単におもしろがってるだけだ」
「そうですね。私と隊長を苛めておもしろがってますね。でも、言う通りにしないとどんな仕打ちを受けるか……後で今日の仕事内容提出してチェックされるんですよ?」
ため息をついて悲壮感を漂わせて言う辺り、も被害者であるには違い無い。
それはそうなのだが。
「だから! さっきから言ってるじゃないですか。仕事くださいって」
「私もさっきから答えているだろう。任せられる仕事は無い」
「そんなこと言ったって、団長閣下の命令なんですよ。『シュヴァーンの仕事を手伝え。さもなくば、奴に剣の手解きでも受けてこい』って」
シュヴァーンの頭痛の種はまさにそこだった。
補佐官と言っても、ただが傍に居てお茶でも入れてくれるだけならシュヴァーンにとっても美味しい話なのだが、あのアレクセイがそれだけで済ます筈は無かった。
しかし、まだ文字の読み書きも堪能では無いに書類仕事は無理だし、元より騎士団内の機密書類ばかりで見せられるものも無い。
かと言って、普段銃と魔術で戦っているに、剣を触らせるのも危険だ。
両方、御免こうむりたい。
しかし、団長命令は絶対。
敢えてどちらか一方を選ぶとするならば……
シュヴァーンは、ざっと机の書類に目を通して今日の仕事量を確認すると、何度目か分からないため息をついて席を立った。
「……はぁ。行くぞ」
「え?」
「仕事を手伝わせるくらいなら、こっちの方がマシだ」
そう言って自身の深紅の剣を軽く持ち上げれば、の顔が面白いくらい分かりやすく引き攣った。
「ゲッ……マジですか」
「自分から言い出したんだろう。まぁ、護身用に少しくらい囓っておいた方が役に立つ」
「で…でも、そんなちょっとやそっと囓ったくらいじゃ実戦なんて……」
もごもごと彼女らしくない歯切れの悪さで口ごもるに、思わず悪戯心が沸いた。
「つべこべ言わずに来い、。上官命令だ」
「……貴方まで私で遊ぶのは止めて貰えませんか、シュヴァーン隊長」
「ふっ……心外だな。かわいい部下が団長に叱責されない為の、苦渋の選択だ」
告げればは、それこそ苦く渋い顔をして、やがて諦めた顔でぎこちない騎士の敬礼をした。
「了解しました、シュヴァーン隊長」
「何処からでも掛かってこい」
城の裏手にある林の入口。
シュヴァーンとは、鍛錬場から失敬してきた木刀を手に対峙していた。
騎士団に併設する鍛錬場では無く、わざわざここに連れて来たのは、偏に目立つのを避ける為だ。
シュヴァーンが稽古を付けること自体が珍しいというのに、相手が見たことも無い小柄な女性騎士だなどとなれば、どんな憶測を呼ぶか分からない。
それに圧倒的に男が多い男性社会の騎士団で、下手にに目を止める人間が出ても困る。
「力を正面から受けようとするな。角度を付けて流すんだ」
まずは軽く基本の型を教えて素振りをさせ、少し馴染んで来た頃にこうして指南を始めた。
初太刀から勢いよく打ち掛かって来たの剣を難なくかわし、今度はゆっくりとこちらから仕掛ける。
慌てて木刀で受けようとしたに指導して、ふむふむと真剣に聞いている姿に思わずシュヴァーンは苦笑した。
「あまり強く握りすぎると手首を痛める」
木刀を握った手の上から持ち方を直してやりながら、ふと思った。
これでは、レイヴンとして戦闘の手解きをしているのと大して変わりは無い。
場所が帝都で、互いが一応騎士団所属という立場を除いては。
ふっと笑うとは急に赤面して、目を逸らした。
おやと思ってどうしたのかと問えば、意外な言葉が返ってくる。
「『シュヴァーン隊長』が笑うと、何か無駄にカッコイイ」
「……ギルドの方でもいつも笑ってるだろう」
「あれはただの女好きなおっさん」
「………………」
褒められているのかけなされているのか微妙すぎる言葉に、シュヴァーンは閉口した。
どちらも彼であり、本当の意味での彼では無いような存在……
「シュヴァーン隊長?」
呼びかけられてはっとした。
思わずしげしげとを見つめて、不思議なものだと漠然と思う。
自分が『誰』なのか分からない――そんなことは儘あることなのに、今はが呼んだから……自分は『シュヴァーン』だと何の疑問も無くすんなり呑み込んでしまった。
そんな自分が何だか一方的にに負けたようにも思えて、シュヴァーンは悪戯心を出して木刀を構えた。
「――準備運動はこれくらいでいいだろう。さぁ、みっちりしごいてやる」
「今のが準備運動!?」
絶望的な悲鳴に笑いを堪えて、問答無用でこちらから仕掛ける。
がそれを必死になって捌き、わざと作った隙に攻撃を仕掛けてくる。
どれだけそんな攻防が続いただろうか。
ふっと何かの気配を感じたと思った刹那、振り下ろそうとしたシュヴァーンの斬撃の前に黒い影が躍り出てきた。
「! 危ない!」
「っ! ばかっ…!」
体重を乗せていた攻撃を咄嗟に精一杯逸らしたシュヴァーンだったが、はっとしてを見れば先ほどの場所に尻餅をついていた。
「! 大丈夫か!?」
「は…はい、何とか」
転んだ拍子に腰を打ったらしく痛そうに押さえていたが、木刀による怪我は無さそうだ。
その胸元では、元凶となった黒い影――小さな子猫が呑気にニャーと一声鳴いた。
「念のため医務室に……」
「いえいえ、この通り、ネコも無事ですから」
「ネコじゃなくっ……!」
思わず声を荒げかけたシュヴァーンの頬に、不意にぽつりと冷たい滴が落ちた。
にも当たったらしく、空を見上げる。
「あ、雨……」
ぽつぽつと降り始めた雨は、あっという間に夕立となり、辺りはすぐにどしゃ降りとなった。
稽古どころではなくなり、二人も慌てて執務室に駆け戻る。
「――ほら。早く拭け、風邪を引く」
「ありがとうございます」
奥から引っ張り出して来たタオルをに放り投げたシュヴァーンは、ため息をついて自身の髪を拭った。
自分の剣がに当たると思った瞬間、血の気が引いた。
あんなに生きた心地がしなかったことなど、今まで無かった。
ちらりとの方を窺えば、こちらの思いなど余所に、濡れ鼠の自分は放置で腕に抱えたネコの方を丁寧に拭いてやっている。
シュヴァーンはもう一度、今度は特大のため息をついた。
「何をやってる」
自分の首に掛けたタオルでの頭をがしがしと拭うと、くすぐったそうに「ありがとう」と言ってこちらを振り向いた。
濡れた前髪の隙間から見つめてくる無防備な瞳や雨のしたたり落ちる鎖骨が思ったよりも近くにあり、自然と目がいってしまって動揺したシュヴァーンは思わず大きく視線を反らせた。
「?……シュヴァーン隊長?」
呼ばれて今の立場と場所を思い出したシュヴァーンは、先ほどとは違う色のため息をついた。
「……女性用のシャワー室に行ってこい」
「でも、この子が……」
「ネコも連れてっていいから」
「! はい!」
満面の笑顔が頷いたは、子猫を抱えてパタパタと執務室を出て行った。
そんな後ろ姿を見送ったシュヴァーンは、一人になって深々とため息を一つ。
「こんな、心臓に悪い補佐官なんて聞いたこと無い」
自分だけの部屋に、ぼやきとも惚気とも取れる言葉がぽつりと落ちる。
人を玩具にして遊んでいただけの団長に恨み言を言うべきなのか感謝するべきなのか……
微妙な思いを味わった帝国騎士団隊長主席たるシュヴァーンは、まだ一日体験騎士団を終えるまでに振り回され続けることを、半ば諦めの想いで覚悟したのだった。
100802
サイト11周年記念に相方からドリ絵を強奪したので、無理矢理シュヴァーンドリにしてみました!
テムザ以降バクティオン以前で、夢主はシュヴァーンとアレクセイの正体を知っててザーフィアスにいる設定です。
連載ではまだ出て来てないけど、シュヴァーン隊長書けて楽しかった!
美味しいシュヴァーンごちそうさま、コロン!
CLAP