「折角天の川もキレイに見えることだし、みんなで七夕やろうよ!」
目を瞬くだけの彼らに、織姫と彦星の話から教えて、目を輝かせたエステルが一も二もなく飛びついたお陰ですんなり七夕飾りを作る流れになった。
さて、まずは……
「短冊にお願い事を書いてみよう!」
やっぱり短冊がなければ始まらない!と意気込んだのは良いが、肝心の色紙が無い。
「…………リタちゃ~ん!」
「うわっ、何よいきなり!」
速攻他力本願で泣きついたに、リタは嫌そうな顔を見せたけれど、事情を話せば何だそんなことと言ってあっさり色とりどりの紙を取り出した。
「余分に持って来てるし、好きなの使えば?」
「リタ、でもこれって……」
「研究に必要なことを書き記す為にいつでもある程度の量は携帯してんのよ。街に行けば補充出来るし、問題ないわ」
「リタ――!!」
「わっ、ちょっと止めなさいよ!」
感激して抱きついたに、口では嫌がりながらも赤い顔で形ばかりの抵抗をしてくるリタ……
「うん、ツンデレは正義……!」
「何言ってんだ」
「あはは、こっちのこと」
その後、もっと大きな笹を取りに行く班と笹飾りを作る班とに振り分かれて、唯一七夕知識のあるが必要なことを教えてそれぞれに作業に取りかかる。
「んで? ちゃんは何すんの? おっさんも手伝うわよ」
「レイヴン……それじゃ、笹を設置する土台作って、短冊書く準備でもしようかな」
護衛…というより保護者のようでもあるレイヴンを引き連れて、はリタに貰った紙を持ってその場を離れる。
流石に焚き火の傍では万一火が燃え移っても困るし、少し離れた所が良いだろう。
笹を取りに行ったユーリは大物刈ってくる!とか意気込んでいたから相当大きなのを持って帰ってくると見越して、ちゃんと立てられるように土台くらい整えておかなければならない。
「どの辺がいいかなー、レイヴン」
「うーん、そうねぇ……その笹の葉?って、飾りとか短冊とかが風に揺れるのが綺麗って言ってたわよね? だったら、見晴らしが良い割と広い所のがいいんでない? ああ、この辺とか」
野宿場所から余り離れすぎても困ると思っていたが、レイヴンが足を止めたのは焚き火の灯りも遠くに視認出来るほどの距離にある荒れ地だった。
「うん、絶好の笹の葉ポイントだね! それじゃ、私は短冊切っとくから、レイヴンは土台作りよろしく!」
投げキッスと共に言えば、いつもの道化リアクションで「おっさんにお任せあれー!」と即答が返ってくる。
実際の投げキッスごときにそれほどの価値もないだろうに相変わらずなレイヴンに苦笑して、さて…と手元の色紙に目を落とした。
「確か五色だったよね……」
五行説がどうとか聞いた気がするのできっと色も決まっているのだろうが、この際無視して綺麗に見える原色に近い五色抜き出し、それぞれ一人一枚行き渡るようにカットして、こより代わりの草の茎を巻き付ける。
「終わったわよー、ちゃん」
黙々と手を動かして全員分出来た頃に、タイミング良くレイヴンが戻ってきた。
見れば、魔術でも使ったのか綺麗に土が盛り上がり、笹を差し込む為の穴まで開けられている。
「レイヴン、完璧! 流石だね! 超カッコイイ!!」
「そ…そう? いやー、ハハハ! 俺様にかかればざっとこんなもんよー!!」
一旦は照れても、すぐに本心から満更でも無いように高笑いする。
丸っきり予想通りの反応で、早くもレイヴンの扱い方を覚えつつある自分には苦笑した。
そんなお茶目なからかいがバレない内にと、出来たばかりの短冊をレイヴンに渡す。
「それじゃー、仕事の早い優秀なレイヴンにご褒美! 一番乗りで願い事書いていいよー」
「願い事……て、これに? 書くの?」
「そうそう。それを天上でラブラブしてる織姫様と彦星様が見て叶えてくれるんだよ」
かなり間違った適当なことを言っている自覚はあったが、異世界でお遊び感覚でやっているのだから別に構わないだろう。
そう開き直って、自分もペンを取る。
「願い事って、具体的にどんな?」
「えっと、本当は織姫に肖って芸事とかだったかなー……でも向こうでもそんなの気にしたこと無かったし、何でもいいよ!」
「何でもねー……ちなみにちゃんはどんな願い事してきたの?」
「どんな……」
問われて、過去の七夕を思い返してみた。
ここ最近は全く縁が無かったが、昔は学校行事などでもやった記憶がある。
「将来ケーキ屋さんになれますようにー!とか、宝くじ当たりますようにー!とか……あ、まともなのでは駆けっこが速くなりますようにとかもあったけど……ハハ、結局子どもだったから将来の夢的なのが多かったかなー」
話しながら、うっかり向こうでの家族や友達との思い出が甦り、気付いた時には不覚としか言いようが無い。
相手が異世界から来たという事情も知っているレイヴンだから自然と甘えてしまっているのか……ポロリと涙が零れていた。
「「え?」」
それに気付いて声を上げたのはもレイヴンも全くの同時。
一旦堰を切るとポロポロと後から後から零れてきて……二人は全く同じように狼狽えた。
「ど…どうしよう……っ!」
「どどど……どうしようって……えっと……ゴメンね? おっさんがおかしなこと聞いちゃったから……」
「レイヴンの…せいなんかじゃっ……やだ…ゴメッ……」
こんな所をユーリたちに見られようものなら、確実にレイヴンに泣かされたと誤解されてしまうだろう。
勝手に感傷にひたって泣いておいて、それは余りにも申し訳無い。
しかし自分でもどうしようも無くて、は余計テンパッてあたふたと慌てた。
どうしようという焦りは尚更に今の自分の境遇を反映して心許ない気持ちにさせる。
それがダイレクトに涙腺に影響して涙が止まらなくてまた焦る――
そんな悪循環に不意に終止符を打ったのは、強引に押しつけられた温かいぬくもりだった。
「ッッ――――!?」
びっくりしすぎて頭の中が真っ白になる――そんな経験をは初めて体験した。
抱きすくめられた体が硬直したまま石像のように動かない。
「レ…レイヴン……?」
「……これ以上泣かないで……俺様、ちゃんを泣かせたくはないのよ」
「………………」
胸から直接響いてくる低いその声が、本当に弱り切った響きで言葉を紡いで、はふっと肩に入っていた力が抜けた。
押しつけられた胸板がこれから流す涙も吸い取ってくれたかのように、涙はぴたりと止まっていた。
「……うん、泣かない……泣かないよ?」
「……ほんとに?」
「誰かさんのおかげで、びっくりしすぎて涙も止まっちゃった」
茶化してそう言って僅かに体を押してレイヴンと視線を合わせると、泣き止んでいるのを証明するように笑う。
レイヴンは少し驚いたように、しかしひどく優しい表情で微笑した。
「――おーい、そこの二人ー、麗しき兄妹愛なら後でやってくれねーか」
唐突に横手から声を掛けられ、はレイヴンと同時にその場に飛び上がった。
「ユッ……ユユユーリ!! いいつから……」
「俺は今来たとこ。……つーか、人が働いてんのに、なーにしちゃってくれてんのかなーこのおっさんはー。よっぽど痛い目が好きなんだなーっと」
「ちょっ……ちょっと青年! 何で魔物もいないのに剣なんか構えてんのよ」
「そりゃーあれだ。節操のない中年おっさんにおしおきって奴だ」
「ちょちょちょー暴力反対ー! 大体、おっさんとちゃんは兄妹なんかじゃっ……」
「へぇ…? 兄妹とかとしてじゃなく、マジに手ぇ出そうとしてた……と」
「い…いやいやいや! 手出すとかそんなじゃなくてね!? ちょっと落ち着いてユーリ君! 話せば分かる! 話せ……」
直後に響き渡った悲鳴は言葉には表しがたいもので、は薄情にも目を逸らして冥福を祈った。
「見てください! 飾り出来ましたー! ……? どうしたんです?」
「エ…エステル……何が……?」
「顔、真っ赤です」
「っ!」
指摘されて初めて自分の頬が赤いことに気付き、ユーリにも確実に見られただろうことを思うと穴を掘って地球…テルカ・リュミレースの裏側まで埋まりたい心境だった。
「――レイヴンの馬鹿」
何だか、問答無用で負けたような、妙な敗北感があった。
だから、ぼそりと誰にも聞こえないように呟いて、自棄のように短冊に願い事を綴る。
――来年もまた、みんなで七夕が出来ますように。…仕方ないからレイヴンも一緒に。
100709
番外編の七夕選択式ドリーム。
まさかの二日遅れアップで、時期外れ感ビシビシですみませんでした。
三つ目の選択肢でようやくのレイヴンルート。
泣いて一緒におろおろする二人が書きたかっただけ。……でした。