5.運命の名の元に

 王都アーリグリフ――雪深く、美しい都だった。
 道中のカルサアも中々に大きな町だと思ったが、アーリグリフは流石王都というだけあって規模が違う。
 厳しい寒さの中にも、そこで生活する人々の温かさが溢れる――これが戦時中で無く、平和な時であったら、どれほど素晴らしい都だろうと思われるような街並みだった。

 がその王都に足を踏み入れて、苦手な寒さも吹き飛ぶほどに驚いたこと――
 門を潜ってすぐの区画に埋もれるように陣取っていた、突然落ちて来たという謎の物体――

「これか……」
 事前に聞いていた物体を目の前に呟いたアルベルの横で、は余りのことに放心した。

 ――それは、まだ見知らぬ人間の心中を察するに余りある光景だった。

 謎の物体――この国の人々がそう呼ぶそれは、には謎でもなんでも無い。
 そう、宇宙を航行する小型高速艇だ。

 これから降りてきた人間は大人しく城に捕まっているというから、この未開惑星に害を成そうという人種では無いのだろう。
 それに、この惨状は………

(完全にイカれちゃってるみたい……)

 ところどころ煙を吐いている小型艇は、エンジンがおしゃかになっているのだろう。
 未開惑星保護条約なるものがあるのにこんな町中に墜落してきたということは、不慮の事故に違いない。

 小型艇だと分かった時には、一瞬自分の追手かとも思ったが、その考えはすぐに消え去った。
 誰だか知らないが、小型艇の主には激しく同情する。

「……出てきた人っていうのは、どうなるんですか?」

 元は同じ文明世界の同胞として、出来ることなら何とかしてあげたい……そう思いつつ問い掛けたに、アルベルは歩きながら言った。

「さぁな。今頃、牢で拷問でもされてるだろう」
「ご…拷問ですか……?」
「シーハーツの新兵器だって話だからな」

(最悪……)
 戦争している国の新兵器だと思われて投獄されたのなら、一介の漆黒兵であるには手に余りすぎる。
 とにかく、城で話を聞いてみるしかないと割り切り、少し前を行くアルベルを小走りに追った。





「どっちでもいいだろう、そんなこと。結局は、敵かそうでないかのどちらかしかないんだ。……面倒なら俺が即刻殺してやるぞ?」

 アーリグリフ城内での御前三軍会議。
 上座の王と、風雷団長ウォルター、疾風団長ヴォックス、漆黒団長アルベルが臨席し、周りにはその部下たちが控えている。

 街中に突然落下してきた謎の物体について協議する場として設けられたこの会議は、シーハーツの新兵器だという話から始まり、捕虜として捕らえてある二人の扱いについて論点が移っていった。
 先ほどの不穏な発言をしたのは、アルベル。
 捕虜にも人権があると主張したウォルターと真っ向から対立するヴォックスが言い争っていた矢先の発言だった。

 アルベルの背後に控えながら、心中で精いっぱいウォルターの応援をしていたは、余りにもアルベルらしい発言に些か脱力する。
 同じく、黙ってしまったウォルターとヴォックスに、タイミングよく王が口を開いた。

「ヴォックスは引き続き捕虜の調査を。ウォルター、アルベルは各々の持ち場へ戻るがいい。頼りにしているぞ……我が誇らしき騎士たちよ」
「はっ!」

 その言葉で会議が締め括られ、ヴォックスはすぐに退席していった。
 今から例の捕虜の所に行くのかと注意を逸らしていたは、アルベルに呼ばれて我に返る。
 慌てて駆け寄ったは、ぐいと王の前に押し出された。

「ん? アルベルよ、その娘が例の………」
「ああ……」

 アルベルに目線で促され、は緊張しながらも口を開いた。

と申します、陛下。本日より漆黒の一員として、陛下と……アルベル様に、忠誠を捧げたく存じます」
「ほぅ……」

 仮にも一国の王と一軍の団長を同列に並べるのはマズイだろうと分かっていながら、は敢えてそのように言った。
 驚いたように自分を見つめるアルベルの視線に気付きながらも、は王の前で頭を垂れる。

「オレへの忠誠と同じく、アルベルにも誓うというのか?」
「はい――」

 厳密に言うならば、が傍で力になりたいと思ったのは、アルベルである。
 そのアルベルが仕える人物だから、王にも忠誠を誓う。
 言うなれば王はおまけなのであって、だからこそ王だけに忠誠を誓うとは言えなかったのだ。

「……おもしろい」

 そう言って、名君と名高きアーリグリフ13世は腰の剣をスラリと抜いた。
 は動ぜずに、その場で瞑目する。

 王が手にした剣を静かにに向けた。
 焦って腰を上げたアルベルをウォルターが制するのと、王の剣がの肩に置かれたのは同時だった。

「騎士・よ、お前の働きに期待している。我が誇らしき漆黒騎士として、オレとアルベルの為に力を尽くせ」
「仰せのままに――」

 型通りの儀式が終わって王が剣を収め、が身を起こすと、王はニヤリと笑ってを見た。

「そなたのように肝が据わっている娘は久しぶりに見たぞ。オレに殺されるとは思わなかったのか?」
「ご無礼をお許しください。陛下はそのように狭量な方では無いと思ったものですから――私、人を見る目だけには自信があるんです」
「ハハハッ、気に入ったぞ、
「王なら、そう仰ると思っておりましたぞ」
 後ろから見守っていたウォルターがそう言いながらの手を取って立たせた。

「全く、どうやってこのような逸材を見つけてきたのか……そこで肝を冷やしているアルベルにも見習わせたいくらいじゃ」
「なっ…! こいつが勝手なマネするからだろうが…ッ!」

 何事も無かったことに溜息をついていたアルベルは、いきなり話の矛先を振られて声を荒げる。
 その慌てようがおかしかったのか、ウォルターは更に笑った。

「そうかそうか、そんなにが心配じゃったか。若いとはいいのぅ」
「じっ…じじい、テメェ……!!」

 そのまま低次元な言い争いを始めた祖父と孫のような二人に、王は苦笑し、冗談交じりにに言った。
「あのような大人気ない主で本当に良いのか? よ」

 王からアルベルへと視線を移して、はにっこりと頷いた。

「はい。アルベル様は、とてもお優しい方ですから」

 その一言に、アルベルとウォルターはぴたりと動きを止めた。
 王も含めて唖然とする三人の中、一番最初に我に返ったのはアルベルだった。

「……これ以上付き合ってられるかっ……!」

 語気も荒く出て行った後姿は、耳がほんのり赤くなっていて……
「……照れてましたか?」
「照れておったな」
「まだまだ青いの」

 残された三人は呟き、同時に笑った。
 久しぶりに笑い声の響いた会議の間で、王はを改めて見遣る。

、先ほどそなたがアルベルにも忠誠を誓うと言ってくれたこと、あやつを優しいと言ってくれたこと、親代わりとして嬉しく思う。それはウォルターも同じだろう」
 大きく頷いたウォルターと王に見つめられて、は軽く微笑む。

「アルベルを頼んだぞ」

 言われた言葉に、今度は大きく頷いた。

「はい、お任せください――」








04.3.14
CLAP