勝負始め

※戦国時代とは異なりますが、ここではBASARA世界も現代と同じ干支概念があるということにしております。ご了承ください。




「よぉ! 来てやったぜ、!」

 そう言って笑顔満面で手を上げた人物を前に、は唖然と立ち尽くした。

「………おい、。俺の目がまともなら、お前に親しげに挨拶してるのは西海の鬼に見えるんだが」
「………………残念ながら、正常だと思います」

 年が明け、三箇日も終わらず、いまだお祭騒ぎに興じていた伊達の本拠・小田原城の本丸である。
 昼夜問わずの大宴会が続き、流石に酒にも辟易してきた政宗とそれを介抱させられていた――その二人が座っていた縁側に、本当にひょいと唐突に現れたのだ。

 敵であるはずの四国を統べる西海の鬼――長曽我部元親が。

「……なんでこんな所に居るんですか、元親さん」
「いや、船の上で張ってた宴でよ、寅年っつったら虎姫だよなって野郎どもと盛り上がってなー。話してたら会いたくなっっちまったのよ」

 今日の見張りにゃ仕置きだな、と苦々しく呟いている政宗を尻目に、よく分からない理屈でここまで来てしまったらしい元親は、土産だと言ってに一つの風呂敷包みを放り投げた。

「な…何ですか、これ?」
「いいから開けてみろって」

 元親から促されるままに恐る恐る紐解いて見れば、中から出てきたのは掌に乗るくらいの一つのオモチャ。
 虎の形をしており、ぜんまい仕掛けでカタカタと歩くようになっている。

「……懐かしい…」
「あん?」
「い…いえ。す…すごいですね! かわいいです! もしかして元親さんが作ったんですか!?」

 未来で子どもの頃に持っていたオモチャに似ていると、うっかり感慨にひたってしまったのは秘密である。
 慌ててが言葉を続けると、元親は得意そうにまぁなと頷いた。

「普段はでかいカラクリばっかだから、ちっちぇーもん作るのなんざ訳無いぜ。田舎モンにゃそういうカラクリは珍しいだろ?」
「あはは……ええ、まあ……。ありがとうございます、元親さん」
「いいって事よ! はっはっはっ!」

 は侍女という立場柄、酒はほとんど飲んでいなかった。
 だからこの時、傍らの政宗の機嫌が悪いことにも気付いていたし、何だかんだ言っても敵である元親をただで帰すことが難しいことも分かっていた。

(でも、新年早々、争いごとなんて冗談じゃない……)

 瞬時に如何に穏便に済ませられるか頭を絞り、策を巡らせる。
 そうして、ここはやはり飲み比べなどに持ち込んだ方が無難だと、そうようやく結論付けたその時だった。

――!!」

 何やら遠くから呼ぶ声が聞こえたと思った刹那、辺りに轟く豪快な爆音。

「Jesus……今度は何だ」
ー! ちょっと出てきてくんねーかなー!」

 溜息を付いた政宗と顔を見合わせたは、その隻眼が尋常ではないくらい不機嫌に顰められるのが分かった。
 呼び声には聞き覚えがありすぎる……伊達配下の前田家風来坊、前田慶次のものだ。

 元親だけでも頭が痛いのにと思いながら、不承不承騒ぎの渦中へと歩みを進めると、栄光門の外に大きな物体が見えた。

「ゲッ……マズイ……」

 思わず呟いてしまった時には既に遅く……

「何だ、あのデカブツは!!!」

 歓喜か怒気か、とにかく興奮した面持ちで駆け出した元親を、も慌てて追いかける。

「おっ、ようやく出てきたな、! 新年おめっとさん!」
「お…おめでとうございます。ところで慶次さん、それは一体……」
「ああ! 京の祭で皆が作ってくれた神輿なんだけどさー、縁起もんだから、寅年の虎姫にも見せてやりたいと思ってここまで持ってきたんだ!」

 もうどこから突っ込めば良いのか分からないが、取り合えず慶次が言う『神輿』というのは、横臥した慶次を模して作られたもので、当の慶次が掌に乗ってしまうくらいの大きさがある。
 しかも何やらカラクリで大雑把な関節なども動くらしく、西海の鬼を刺激するには充分なものと言えた。

「ありえない……ありえないから……」

 とて人の子、目を背けたいものだってある。
 そもそもこんな大きなものを持ってどうやって京からここまで来たのかとか、神輿ってことは慶次自体が神様扱いなのかとか、大体寅年と虎姫とは全く関係が無いのにだとか――
 そんな当たり前のつっこみを、現実逃避しながらブツブツ呟いていた僅かの間が仇となった。

「何が神輿だ! テメェ、カラクリ舐めてんのか、アァン!?」
「おっ、何だよ、西海の鬼! アンタも来てたのかい?」
「うるせぇよ、前田の風来坊! たかが神輿くらいで騒ぎ立てやがって」
「たかが神輿、だぁ!? ちょいとその言葉は聞き捨てなんないね! 喧嘩と祭は男の花だ! それをたかが呼ばわりされたんじゃあ、黙ってらんねーよ!」
「しゃらくせぇ! だったら、どっちのカラクリがすげぇか、白黒はっきり付けようじゃねーか!」
「あぁ! 受けてたってやるよ! 正月から泣きべそかいてもしんねーよ!」
「こっちの台詞だぜ、お祭野郎が!」
「後悔するよ、鬼ヶ島の鬼さん!」

「チッ、独眼竜! 場所と材料借りるぜ! ! おめぇにぴったりの寅号作ってやっからよ!!」
「は……は!? はい!!??」

 かくして、政宗の海より深い溜息と口汚いスラングと共に、伊達本拠・小田原城にて、なぜか長曽我部元親vs前田慶次の世紀のカラクリ対決が幕を開けたのであった。





「――って! 何っですか、コレはぁぁぁぁ――――――!!」

 展開に付いて行けず、呆気に取られている間に、これまたありえないほどの早さで対戦用のカラクリを完成させた元親。
 自慢げにたちの前に披露されたそれを見て、一行はまさしく度肝を抜かれた。

 その中でも、が受けたショックが一番だったことは一目瞭然である。

「ガ……ガ…………」
「が?」
「ガ●ダム……!?」
「……何だって?」

 思わず未来のロボットアニメを口走ってしまうほど、それはまさしくロボットだった。
 しかも、何を隠そうの上半身を模して作られており、中々のディテールである。

「驚くにはまだ早ぇぜ! こいつぁただのデカブツじゃねぇ! なんと、胸のとこに人が入って操作出来んだからよー!!」
「しかもコッ●ピット付きモビ●スーツ!!??」

 もはや何が何やら分からないまま叫んだは、これまた気付いたらそのガン●ムの掌の上に乗せられていた。

「お前をこの鬼の妹分と見込んで頼んだぜ、! 神輿とか言うふざけたデカブツなんざぶっ壊してまえ!!」
「好きな女の子に手を上げるのは歓迎出来ないけど、相手にとって不足は無いね! それじゃいっちょ、やってみますか!!」

 ガショーンガショーン、ギギギギギ、ガチャン!

 二体のカラクリが向かい合って、いざ勝負開始―――という瞬間。

「…………………………は?」

 ようやく、自分がその世紀のロボット対決の間に挟まれて、一方の操縦を任されたのだと認識が追い付いたは、徐に――キレた。

「ストーップ!! この勝負は無し!!」
「何だよ、。ここまで来て止めるなんて、野暮ってもんだよ!」
「そうだぜ、! 男なら腹ぁ括ってぶつかって来い!!」

 プチリ――その音に気付いたのは、世紀のロボット対決会場にされた不幸な城主その人だけだった。

「So fool……馬鹿な奴等だぜ……」

「来ないならこっちから行くよ!」

 政宗の呟きも耳に入らず、納得出来ずに先に仕掛けたのは慶次――
 だが、無言で振り返ったの前で、慶次の操るその巨大カラクリ慶次神輿は……呆気無く炎上した。

「……私は、止めてくださいって、言いません、でした?」

 灼熱の炎に炙られながら、絶対零度の微笑に凍りつく。

「慶次さん」
「は…はい!」
「私に見せたいっていう気持ちは有難いですけど、ここまでそんな大きなものを持って来るのに、一体どれだけの人に迷惑を掛けたんですか?」
「や…やぁ、それは……」

「元親さん」
「お…おぅ」
「カラクリ好きは分かりますけど、新年早々人様のお城でこんなに荒事起こしてちゃ、人としてどうなんだって話ですよね。子分の皆にも顔向けできないと思いません?」
「そ…それはだな……」

「喧嘩するなら勝手にどうぞ。ただし、誰にも迷惑かけないようにやってくださいね」

 勿論、私にも。
 そう言ったは、巨大ロボの掌の上でにっこりと微笑んでおり、その光景はまるで地獄の菩薩のようだった――と書き記されそうになった成実の日記も燃やされた。

「…………お前、今年も絶好調だな」
「何がですか?」

 翌日、騒動を起こした客人たちも帰り、正月気分も抜けて、ようやく日常が戻ってきた小田原城で……
 いつもと全く同じ侍女仕事に精を出すに、政宗はそう言うしか無かった。

「いや、それでこそ独眼竜の女ってな。今年も宜しく頼むぜ、Honey!」
「だ…だからハニーじゃありませんって!」

 最強かもしれない姫君と、それを豪快に受け止める城主がイチャつく光景を遠巻きにしながら、周囲の人間は須らく悟った。

 だけには逆らうまい――それは当然としても。

 『にだけは、迷惑を掛けまい』

 それはこの先永く続くであろう伊達の歴史において、絶対的な不文律となったのであった。









100104
全く正月に間に合いませんでしたが、明けましておめでとうございます!
新年ギャグで!と思った時に、紅白の小/林●子しか出てきませんでした(笑)
あの衝撃は如何ともし難い……。
ガン●ムと口走ったのは、まさかのヒロインオタク説……いやいや、一般のお嬢さんでもガン●ムくらい知ってる筈です。
寅年だから虎姫ネタで!と思ったんですが、蓋を開ければ全く関係ない話になりました。
亀連載ですが、今年も「狐花」を宜しくお願いします!
CLAP