「一に戦術」
「二に連携」
「三四も」
「あって」
「――五本槍!!!!」
チュドーン!!
「おぉ、五本槍! そなたたちも無事だったか! よく来てくれた!」
「浅井殿、見くびってもらっちゃ困るぜ」
「そうそう、力だけになびく俺達じゃないぜ!」
「これでも日夜努力してるのよ」
「そりゃ涙で前も見えなくなるくらい!」
「だって俺達ゃ、良い子のヒーロー!」
「「「「「無く子も黙る正義の味方!!」」」」」
「正義! うむ、天晴れな心がけだ! 共に力を合わせ、正義の剣で悪を削除しようぞ!!」
「「「「「戦国最強連隊! 五本槍!!」」」」」
「正義の名の下に! 浅井長政、見参!!」
チュドドーン!!
「………………………………、」
「私に聞かないでください」
何か言いかけた元就の台詞をはコンマ単位の好タイムで遮った。
なぜこの時代に戦隊ヒーローが居るのか……
レッドがいないのはやっぱり長政の為のポジションだからなのか……
だからって泣く子を黙らせちゃダメだろう……
だいたい、どこから爆炎が上がっているのか……
そもそも、誰に対しての演出効果なのか……
いやいや、問題がズレている……
などなど。
考え出したらキリが無い。
以前雇っていた傭兵が、浅井家の窮状を聞いて馳せ参じた――
要は、そういう話なのである。
長曾我部と毛利が協力しているとは言え、戦力数的にはまだまだ劣っている浅井にとっては、非常に心強い味方だろう。
それは良いのだが……
「括目すべし! 理の兵たちよ!!」
「正義の名のもとに!」
「俺達の正義のもとに!」
「悪を削除する!」
「俺たちにとっての悪を成敗する!」
チュドーン!!
何だか微妙に食い違いがあるが『正義と悪』という分別基準が一致していれば、それで双方問題は無いらしい。
「長政様……楽しそう………」
珍しく穏やかな微笑を浮かべた市に、も頷いた。
確かに、ものすごく楽しそうで生き生きしている。
悲しそうに意気消沈しているよりもずっと良い。
「これで兵の士気も上がりますよ。ね、元就さん」
無理やりに話を振れば、元就は顰め面のまま、けれど珍獣でも見るかのように正義のヒーローたちを見つめた。
「これが浅井の士気が高い理由というなら、一考の余地はある」
一体何を考えるというのか……
それにしても、これは浅井だけに有効な手段だと思いますよ――その台詞を飲み込んで、はふと周りを見回した。
そう言えば先ほどから元親の姿が見えない。
「トラヒメ、トラヒメ!」
え、と思って見上げると、オウムのピーちゃんが頭上を旋回していた。
そのまま方向を変えて飛んでいくその後ろ姿に、これは呼ばれてるんだろうな、と苦笑して、その後を追った。
「こんな所でピーちゃんとデートですか?」
湖の見渡せる畔に一人腰を下していた元親は、振り返って「でーと?」と聞き返した。
「えっと……逢引きって意味です」
「はっは! 残念ながらピーちゃんは男だぜ? それにしても流石に物知りだな、。独眼竜も異国語しゃべってたが、奴に習ったのか?」
「まさか」
唐突に飛び出した名前に、はどう反応したら良いのか分からず苦笑を返した。
政宗なんかに習おうものなら、完璧な発音が出来るまで徹底的にしごかれそうだ。
その光景がありありと想像できて思わず笑ってしまい、はっと我に返ると呆れ顔の元親と目が合った。
「わざわざ惚気る為に来たのかよ」
「ちっ…違いますよ! 大体、呼んだのは元親さんの方じゃないんですか?」
「俺が?」
「ピーちゃんが『トラヒメ』って言ってこっちに飛んで来たから、てっきり呼ばれてるんだと思って」
「ピーちゃん……」
「いつの間に人の二つ名まで教えたんですか?」
ガクリと項垂れた元親にそう聞けば、いかにも聞かれたくなかったという風にその隻眼が歪められた。
「いや、それはだな…………あー、別に意味なんてねぇ! 何となくだ、何となく!」
「何となく……ですか……。へぇ、まさか元親さんが夜な夜な『何となく』名前を呟いちゃうくらい、『虎姫』を気に入ってくれていたなんて……」
「ちっ…違う! そうじゃねぇ!! いや、気に入ってるってのは合ってるんだが、変な意味じゃなくてだな、俺はただ……!!」
強い力で両肩を掴まれ、と元親は間近で見つめ合う形となった。
政宗と同じ……けれど全く違う、荒々しいほどに力強い意志を湛えた澄んだ隻眼……
その二人の頭上で、ピーちゃんが「タイリョウ! タイリョウ!」と囀りながらくるくる回り、お互いが同時に我に返る。
「あ、わ…悪ぃ…!」
「い…いえ……」
気まずい沈黙を嫌うように、元親は間を置かず口を開いた。
「あれだ、、お前、ここに来る途中に倒れたことがあっただろ」
唐突な話題だが、それはほんの数日前のことなので記憶に新しい。
元親にもずいぶん迷惑をかけてしまった。
過去の断片に触れて、闇が這い上がって来た感覚はまだ鮮明に思い出せる。
「あの時のお前の気配と浅井の嫁さんの気配が似てると思ったんだが……」
闇の属性を纏い、自身も闇を引き寄せている市――元親が感じたことは正しい。
「そういうもんも何もかも、お前が『虎姫』ってことに関係してんのか、ってな」
伏せていた目を上げて、は思わずまじまじと元親を見た。
別に『虎の姫』であることが問題なわけでは無く……いや、基本的にそうとも言えるのだろうか。
混乱をきたした頭で見つめていると、元親は苦笑しての頭をわしゃわしゃとかき回した。
「またそこで小難しいことを考えるから疲れんだよ、お前は。俺なんか、ここでぼーっと考えてたのを、ピーちゃんが勘違いされたくらいだ」
それでピーちゃんが『虎姫』を呼びに来たのかと思うと自然と笑えた。
「そうだ、笑ってる方が似合いだぜ。ここにいるお前は『虎姫』じゃなく『』として浅井に手貸してんだろ。俺達の仲介役を引き受けたからには、辛気臭ぇ面してんじゃねえ。誰だって、陰気な船頭の船に乗りたいとは思わねぇからな!」
「……そうですね。To sail in the same boat.ですもんね」
「あぁ? この俺に分からねぇ言葉使ってんじゃねぇ!」
「一蓮托生って意味ですよ。死なばもろとも、運命共同体」
「あっちで馬鹿騒ぎしてる奴らもな」
示された先では長政と五本槍がまだまだヒーローショーを繰り広げており、ギャラリーも増えている。
はは…と苦笑して、気を取り直すように深呼吸すると、今度は心から笑えた。
一人じゃ無い――その温かい気持ちと共に。