「願い事……か」

 今宵天の川を渡る恋人たちに願うのは……

 年に一度の逢瀬。
 愛しい人に年に一度しか逢えない悲しさなのか、年に一度は逢える喜びなのか――
 もしなら……そう考えて、苦笑した。
 何も考えないまま、自然と口から呟きが漏れる。


「政宗さんに会いたいな……」

 本当に自然に……さらりと零れた言葉に、は我に帰って赤面した。

(えっ…いや、ちょっと待って……え!?)

 何だか自分は、いま物凄いことを口走った気がする……

 混乱する頭を静める為に、は間抜けなくらい何度も深呼吸した。

 きっと、今のは何かの間違いで、語弊があった筈……
 ぶつぶつと呟きながら、何とか落ち着こうと慌てて立ち上がり、早足で廊下を歩き始めた。

 一人で考えていても拉致が開かない。
 いっそのこと、本当に政宗に会いに行ったら――と考えて、こんな状態で会ったら何を口走るか分からないと慌てて却下する。
 そんな慌しい自分の思考に没頭していたは、不意に脇から腕を捕まれて飛び上がった。

「誰……っ!?」
「ご挨拶なヤツだねー、折角助けてやったってのに」
「まっ…ままま政宗さん……っ!?」

 暗くてよく見えなかったが、の腕を捕まえている人物は確かに伊達政宗その人で、は一瞬頭の中が真っ白になった。

「あ? 何そんなに慌ててんだ、。……庭に突進したり、熱でもあんのか…?」

 よく見れば、の片足は廊下から庭に踏み出そうとしていた。角に気づかずにそのまま廊下から落ちそうになったところを、間一髪で助けられたらしい。
 ああ、だから……と、いつもの何倍もかけてようやく理解したは、その後の政宗の行動にぴしりと音がなりそうなくらい硬直した。

「Un~~熱いには熱いが……お前風呂上りか?」

 額を合わせてきた無造作な動作に頭から火を噴くのでは無いかと思うくらい動揺して、半乾きのおろした髪を一房摘まれた時点で限界とばかりに思い切り突き飛ばした。

「…………?」
「やっ…あの…すみません……丁度政宗さんのこと考えてたから思わずびっくりして……っ!」

 慌てて弁解するように言い募ってから、はたと口を噤む。
 恐る恐る政宗を見上げると、驚いたように見開かれた隻眼が、すぐにおもしろそうな笑みに変わった。

「ヘェ~~、廊下から落ちるくらい必死に俺のこと考えてたって? 可愛いこと言ってくれるじゃねぇか、honey…?」

 墓穴を掘ったことに気づいた時には遅かった。
 完全におもしろがった政宗が、にやにやと笑いながら距離を詰めてくる。

「honeyじゃないですよ。嫌だな~政宗さんってば、ボケるには早いですよ」
「ア~? そんなこと言うのはこの口か~?」

 壁際に追い詰められ、顎を掴まれて、は内心悲鳴を上げた。
 そして悟った。

 今は何を言っても墓穴を掘る。もう何も言わずに一刻も早く逃げるべし。

「あー…私急いでるんで、これで…!」
「おっと、まぁ待てよ……逃がさないぜ?」

 間近から射抜くように見つめられて、は目を見開いた。
 そして完全に許容量を超えた頭で呆然と思った。

(なんでこの人、こんなに無駄に色気あるんだろう…)

 もはや頭に熱が上りすぎて、有り得ない…と呆然とするしか無かった。
 絶句して固まっているに、政宗は更に悪魔の笑みを浮かべる。

「今日は七夕の祭だろ? そんな夜に会いに来るなんて、そんなに俺が恋しかったか?」

 気付いてやれなくて悪かったな、と耳元で囁かれ、は耳を押さえて真っ赤になった。

「なっ…何を……!」
「心配すんな、honey.俺は年に一度と言わず、逢瀬は毎日欠かさねぇよ」

 HAHAHA!などとの肩を抱き寄せて高笑いした時点で、はようやくそれに気付いた。

「……政宗さん、酔ってますね!?」

 普段ならばすぐに気付いたであろうほどに濃い酒の匂いを纏っていた政宗に、は怒りがこみ上げてくるのを感じた。
 羞恥と怒りが入り交じって爆発する。

「私が織姫なら、一年も待たずに彦星の根性叩きなおしに行きますから! 政宗さんも覚悟しといてくださいね!!」

 もう我ながら何が何だか訳の分からない台詞を吐き捨てて、は猛然と逃げ出した。

 だから知らない。
 政宗がふと楽しそうに口元を歪めたことも。
 その顔が酒のせいだけでなく僅かに赤かったことも――









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