Tales of Vesperia本  
「おお、しんでしまうとはなさけない!〜テルカ・リュミレースで全滅したら異世界の棺桶で目覚めました〜」

A5横オフ  34P ¥400(イベント頒布価格) 230212発行

TOV、レイヴン中心。レイヴン・ユーリ・フレン・エステルがDQ世界にトリップするお話。
カジノやぱふぱふなど、DQと言えばの世界でおっさんたちが冒険する本。6本の小説とそれぞれ1枚ずつ挿絵/漫画です。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


  さいしょのまち

 

「おお、レイヴンよ。しんでしまうとは情けない。そなたにもう一度機会を与えよう」
 起き抜けに言われたセリフは、あまりにも意味の分からないものだった。
「えっと……どちらさん?」
 ステンドグラスから光が差し込む教会――の中で、当然のようにこちらの名を呼び溜め息をついている神父は、しかし面識の無い年配の男だ。
 そもそもここはどこなのだという疑問も抱きながら辺りを見回し、体を起こした自分が寝ていた場所を見てぎょっとした。
 何とも立派な ―― 棺桶だった。
「ちょ……え? …しんでしまった? さっきしんだって言った? え……じゃあここって、もしかして天国?」
 レイヴンが目を瞠って聞けば、神父は軽い調子で首を振った。
「まだ混乱しておるとは……だいたい全滅してしまうとは何事じゃ」
 全滅――また不穏すぎる言葉にはっとして周りに目を向ければ、自分が起き上がっている棺桶の他に、閉じられた棺桶があと三つ。
 途端に青ざめて、まさかという焦りと共に棺桶を開く。するとそこには共に旅をしていた仲間たちが冷たくなって横たわっていた。
「ちょ……嘘でしょ…………冗談にしちゃ悪趣味よ、ねぇちょっと青年……フレンちゃん……嬢ちゃんまで…………」
 呼びかけにも応じない彼らにレイヴンの心臓が凍り付きそうになったその時、頭上から間延びした声がかかった。
「どなたを生きかえらせてほしいのじゃ?」
 その場に崩れそうになった体がぴたりと止まる。誰というかそんなことが出来るなら勿論全員だけどと思わず返すと、神父は手元のそろばんを軽快に弾く。
「さすれば、我が教会に三〇ゴールドのご寄付を。よろしいかな?」
 まるで野菜の値段を言うように告げた神父を、レイヴンはまじまじと見つめ返すことしか出来なかったのだった。

 

「……夢よね、夢。それともナム孤島? 何でもいいから早く覚めてくれんかね……」
 疲れきった心地で呟いた言葉は雑踏に消えていく。一人で外に出たレイヴンは、案の定見覚えのない風景に乾いた笑いを零した。
 見覚えのない町……もっと言えば、見覚えのない文化圏の世界。
 教会で仲間たちを有料で生き返らせると言った神父の話を聞けば、レイヴンのことも彼が生き返らせたらしい。全滅した場合は、神様の導きとやらで教会に棺桶に収納された遺体が飛ばされるらしく、パーティの所持金から半額寄付で一人蘇生と決まっているそうだ。仲間に預けていた財布を見てみれば確かにかなりの額が減っている。
 死人の懐から――という倫理的なツッコミは一旦横に置いて、ともかく、詐欺でも何でも藁に縋る思いで蘇生とやらの言い値を払おうとしたのだが、手持ちのガルド貨幣は使えないと言われてしまった。レイヴンの時は全滅だったから仕方なくガルドを徴収したそうだ。
「何なの、『ゴールド』って……」
 どうやら流通貨幣が違うらしいと分かっても、どうしようもない。こうなる直前のことも思い出してきたが、確かに自分たちは魔物と戦っていて全滅した――のだと思う。だが、場所はオルニオンの近郊だった筈だ。
「……とにかく、早いことせんとね」
 僧侶の割に俗物らしい神父に、一ゴールドも無いなら町で所持品を売って来いと言われたことを思い出し、レイヴンは商店を覗きながら歩いた。
 往来には武器を携行した人もまばらに見受けられる。つまり日常的に戦う必要があるということだ。
 だが、回復の為のグミを探してみてもどこにも見当たらない。どの店にも何やら大量の草が置かれているから、これが回復薬なのかもしれない。甘いグミが苦手なレイヴンとしては助かるが、お子様組からは悲鳴が上がりそうだ。ここにいない彼らのことに思考が飛びかけ、かぶりを振った。まずは今もまだ棺桶にいる仲間のことが先決だ。
 そうしている内に店先に武器を置いている商店を見つけて、入口を潜った。筋骨隆々な肉体に覆面を付けている厳つい店主に、いらっしゃい! と野太い声で迎えられる。中に置いてあるものは初めて見る形式の武具ばかりだった。
「ちょいと手持ちのものを売りたいんだけども」
 ギルドで慣れた交渉術も貨幣価値や相場が分からないので役立たないが、目利きは出来る。とは言え、レイヴンたちが装備していた防具は直前の戦闘でほとんど破壊されていたし、持っていた武器は一つも見当たらなかった――何故か一つを除いては。
 手元に残されていた唯一の武器――昔アレクセイから贈られたエヴァライトの剣を店のカウンターに差し出す。店主は手に取ってまじまじと見つめた。
「何だこいつは。見たことも無い素材だな。それにこの毒々しい赤い色……呪われてるんじゃないのか?」
「いやいや、そんなんじゃないわよぉ。こう見えて切れ味はモノホンよぉ?」
 店主はにこやかに語るレイヴンを胡散臭そうに見つめ、ため息をついた。
「どうしてもって言うなら、二〇ゴールドだな」
 それが高いのか安いのかも分からないが、神父に提示された金額に足りない。
「ちなみにそこに置いてる鈍器の売値はいかほど?」
「こんぼうか? 六〇ゴールドだ」
「……そっちの鍋の蓋は何に使うのよ?」
「おなべのふたは盾としても使える防具だぜ。四〇ゴールドだ。――おっ、あんちゃん、そっちに持ってるのはうさみみバンドかい? それなら四五〇ゴールドで買い取るぜ?」
「…………」
 たまたま道具鞄に入っていたウサギルドから貰ったうさ耳に思わぬ高値が付き、レイヴンは無言でそれを差し出した。うさ耳にも、殴ることしか出来そうにない鈍器にも、どこのご家庭にもありそうな木製の鍋蓋よりも低い査定を受けた深紅の剣をそっとしまう。
「……なんかごめん、大将……」
 余りにもいたたまれず、草葉の陰で泣いているだろう在りし日の騎士団長にこっそり詫びた。

 

 レイヴンは急いで戻った教会で、神父に三〇ゴールド支払った。
 受け取った神父はひょいと聖書を開いて短い祈りの言葉を三回唱える。
 怪しげな儀式の前置きだろうかと見守っていると、既に冷たくなっていた筈の仲間たちはそれだけであっさり生き返ったのだった。