Tales of Vesperia本  「Shimmering Light」

B5オフ 44P ¥600(イベント頒布価格) 220814発行

TOV、レイヴン中心。フレンとユーリ多め。漫画と小説で一つのお話になってます。
騎士団長としての迷いを抱えるフレンと今度こそ見守りたいおっさんのお話。おっさんvsフレン要素あり。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


「よく来たな!」
「こちらこそ、招待してくれてありがとう!」
 ギルドの首領(ボス)同士の握手が、互いのギルド員の前で固く結ばれる。
 今まで何度も見てきたような光景だが、その片方に思い入れがありすぎる身としては感慨も一入(ひとしお)だ。
 闘技場都市ノードポリカ――その闘技場の一室で握手を交わしたのは、戦士の殿堂(パレストラーレ)の統領(ドゥーチェ)ナッツと、凛々の明星(ブレイブ・ヴェスペリア)の首領カロルである。
「こんな特等席を用意してくれるなんて……遠慮なく全員で押しかけちゃったけど、本当に良かったのかな」
 カロルが遠慮がちに言うと、ナッツは巨躯に似合わぬ穏やかな笑い声を上げた。
「なに、お前たちには随分世話になった。それにべリウス様も喜ばれよう」
 良好な関係を築いているのが見て取れるやり取りに、壁際で見守っていたレイヴンも内心ほっと息をついた。
 ノードポリカの精霊祭と言えば、昨年頃から話題になっている大きな催しだ。レイヴンも存在だけは知っていたが、実際にこの目で見るのは初めてだった。そして、戦士の殿堂にとっても大切な祭だという。
 戦士の殿堂はいまだ帝国ともギルドユニオンとも僅かに距離があるが、付き合いのあるギルドはそれなりに多く、世界的にも無視できない第三勢力だ。その晴れの日に凛々の明星が招待されたと聞いていらぬ心配をしてしまう辺り、我ながら厄介な性分である。まだ完全に安心できる訳ではないが、張っていた緊張を僅かに解いた。
「この街の祭は初めてと言っていたな。どうだ、中々の賑わいだろう」
「本当に、随分賑やかなのね。こんなにたくさん人が集まってるなんて驚いたわ」
「ああ、港の辺りなんか人の往来がありすぎて、船を降りるのもやっとだったぜ」
 カロルの後ろについていたジュディスとユーリもそう感嘆を口にし、ナッツも嬉しそうに頷いた。
「それは悪かったな。元々の祭は海の豊漁と安全を祈願して夏に行われていたんだがな。一昨年の祭の折にべリウス様を偲んで我らで燈籠を飛ばしたところ、住人たちからも街を挙げて大々的にやりたいと申し出があったのだ。それで元の海の祭に加え、水の精霊となられたべリウス様に感謝を捧げる日としようと決めた」
 前統領べリウス亡き後に引き継いだナッツは人望もあり、だからこそべリウスに感謝する『精霊祭』が受け入れられたのだろう。
「それにしても、ほんと特等席ねー。ここからなら良く見えそうだわ」
 レイヴンが額に手を翳して遠くを見晴らせば、統領に従っていた男たちも自慢げに頷いた。
「そりゃあ客人をもてなす為に整えた自慢の部屋だからな!」
「元はべリウス様の私室の一部だった場所だ。景観は保証するぞ」
 白い大理石の支柱だけが並ぶ窓のない吹き抜けた部屋だが、海風がよく通る為か快適だ。その上、遮るものが無いので、ノードポリカ全体が見下ろせ、広い外洋も見渡せた。天候に恵まれた土地ならではとも言える。更に、ここは全員がくつろぐ為の部屋で、滞在中の寝室は男女別に用意されている。その部屋も広く豪奢で、文句無しの賓客待遇だった。
「……おっさん、これでもまだ心配か?」
 カロルとナッツたちが祭の話に花を咲かせている隙に、横に立ったユーリが小声でそう尋ねてきた。
「この分だと取り越し苦労に終わりそうだけど、戦士の殿堂との関係は、今後のおたくらにとって重要だからね。万一にも何か厄介事に巻き込まれやしないか……ま、老婆心ってやつよ」
「腐ってもドンの片腕だったあんたが言うんだ。一応警戒しておくさ」
「腐ってもって何よ。……ボスはあれでいいけど、側近ってのは常に最悪を想定して構えとくくらいじゃないと。成長著しいボスの片腕になりたいんでしょ?」
 仕返しとばかりに揶揄を返すと、ユーリも半眼で苦笑いした。
 レイヴンは改めてカロルを見遣って、次いで雲一つない青空の元に活気溢れるノードポリカを見下ろした。
「……正直、こっちよりあっちの方が心配ね……」
「おっさん?」
 思い出されるのは、数日前に帝都で見た疲れた顔だった。
「そうね……ユーリ青年、ちょいとばかし付き合って貰うわよ」
「は?」
 訳が分からないと目を瞠る目の前の青年が解決の糸口になってくれることを期待しつつ、幼馴染などというものが有難いのか厄介かは場合によるのだろうなと、嫌そうに顰められるアイスブルーの瞳を想像して苦笑した。

 

     ◆◇◆

 

 活気あるこの街は、帝都の下町にどこか似ている。
住人に聞かれたら反感を買いそうなことを考えながら、フレンは隣を歩く幼馴染を見遣った。
「ユーリ、君も何か用があってこの街に来たんだろ? レイヴンさんはああ仰ったけど、これからは大人しく過ごすつもりだから、もう戻ってくれて構わない」
「おいおい、こっちは一応おっさんに『お節介』とやらを頼まれてんだ。そんなすぐに投げ出せねーだろ。それに、誰が大人しく過ごすって? さっきも自分から婆さんに手貸してただろーが」
「お年寄りが困っていたんだ。当然だろう」
 ユーリはこれ見よがしに溜息をつき、彼のこういう仕草に何度喧嘩をしたことかとフレンも溜息をついた。
 皇帝ヨーデルから下された『強制休暇』の命令――部下たちにも心配を掛けてしまっているというのはフレンとしても心苦しいが、最近確かに抱えている靄は自分の未熟さが原因だと分かっているだけに、ただ大人しく休暇を楽しもうという気になれないのが本音だ。
「フレン、お前、どうせ何かに焦って、もっと力を付けたいだとかどーとか考えてんだろ」
「! 僕は――っ……」
 痛い所を付いてくるのも相変わらずで、それに気分を害されるのも慣れたものだが、いくつになっても素直に認められないのは、相手が誰よりも自分のことを知っているユーリだからなのかもしれない。
「ただ、こんなことをしている場合じゃないと思ってるだけだよ……周囲の優しさに甘えるには重すぎるんだ、騎士団長って立場は。君も分かってる筈だろう」
「団長ねぇ……だが、その重すぎるってー立場を忘れて休めってんで、この街に送られたんだろ?」
「ああ……この街を統治する戦士の殿堂は、帝国とはいまだ不可侵の協定があるからね。この街のことに帝国の公人が関われば、重大な協定違反だ」
「だったら諦めて大人しくしとけ――ってのが出来ない奴だから、おっさんも『お節介』を焼いたんだろーけどな」
 歩きながらでも一応他人には聞かれない程度に抑えた会話だが、ユーリは全くいつもと同じ自然体だ。分かっているのかいないのか、フレンが溜息をついた時、前方で大きな音がして悲鳴が上がった。
 反射的に体が動いたのは同時だったが、駆け付けた先に露店で暴れる男を見つけてとっさに腰の剣を抜きかけたフレンは、不審がられない為に帯剣してこなかった事を思い出す。次いで腰に仕込んでいた小刀に手をやったが、先ほど自分が発した『協定違反』の言葉に体が強張った。
 その横を黒衣の幼馴染が駆け抜け、流れるような動作でいつものように剣の鞘を投げ捨てた。
「昼間っから迷惑掛けてんじゃねーよ…っと!」
 突然の乱入者に罵声を上げながら斬りかかってきた暴漢を軽くいなし、ユーリは剣の柄で相手の腹部を殴打する。もんどりうって倒れこんだ男に周りを囲んでいた人々も押さえつけにかかり、物の数秒で事態は収集した。
 フレンはじっと自分の手を見つめ、居たたまれずに踵を返す。一人になりたくて波止場の方に足を向けたというのに、当然のようにユーリがすぐに追いかけてきた。
「何も言わずに消えるなっての」
 耳慣れた文句に溜息を落とし、ユーリ相手に誤魔化しは通用しないと諦めて口を開いた。
「君の言う通りだ、ユーリ。僕は確かに焦っている」
「ああ。で、何に追いかけられてんだ?」
 港の石柱の一つに腰かけたフレンの背中合わせにユーリも座る。その物言いに苦笑してフレンは海に漂う漁船を眺めた。
「強いて言うなら、立場に――かな」
「騎士団で上に行くのは、目標だったろ」
「そうだ。正しいと思うことをする為、守りたいと思うものを守る為……それを騎士団と言う組織の中で法の枠組みの中で出来る世界を作るために、僕は君と別の道を選んだ」
 思い出されるのは、見習い騎士の頃、共に配属されたシゾンタニアでの騒動――そしてその後――騎士団を去ると決めたユーリと別れた日のことだ。
 当時の隊長ナイレンは、どこか亡き父を思わせる人だった。そのナイレンを、同じ隊に居た人間の裏切りによって亡くした。救うことが出来なかった。教えられたことも託されたものもあったけれど、聞けなかったことや伝えられなかったこともそのままに。あの無力感や後悔は、いつまで経っても色褪せることは無い。父を亡くした時の感情が色褪せないのと同じように。
「……まだ親父さんのこと引きずってんのか?」