Tales of Vesperia本  「欲張りな世界から」

文庫(カバー付) 96P  ¥600 190809発行

TOV、レイヴン中心オールキャラ本。
未央個人誌の小説本です。
クリア直後、レイヴンが今後の道を模索する為に、仲間たちの話を聞く内に困り事を一気に片付ける作戦を立てるお話。
凛々の明星メンバーの他、皇帝家コンビやルブラン・カウフマンなど。

内容紹介



■novel■ 一部抜粋


「いい加減に観念するんだな、おっさん!」
 感動の世界救済から数日後、何故かレイヴンは仲間の青年から罪人のように追いかけ回され、今まさに絶体絶命の窮地に追いやられていた。
 帝都ザーフィアスの下町でのこと、道行く人々も何だ何だと注目し、ユーリがまた悪党を捕まえたかと野次馬が集まりつつある。
「ちょ……ちょーっと、青年? このままじゃ誤解されちゃうから。ここでこういう注目のされ方するの、おっさんトラウマだから」
 ユーリの知る由もない十年以上前の話を持ち出しても、追求の手は緩まない。
「何をごちゃごちゃ言ってんだ、おっさん! つべこべ言わず、ただ頷きゃいいんだよ!」
「そんな無茶苦茶な!」
 思わず素で悲鳴を上げる程度には暴論を振りかざすユーリを、しかし救いの手とは言えない人物が遮った。
「恐喝まがいの物騒な台詞が聞こえたと思ったら、君かユーリ」
「フレン! なんでここに……事後処理で寝る間も無いはずじゃ……」
「寝ている場合じゃないのは確かだけど、これは何よりも最優先される重大事項だからね」
 今の内にと、足音を忍ばせて後ずさっていたレイヴンだが、後ろから突然大きな濁声が響き渡った。
「シュヴァーン隊長殿――!!」
 騎士鎧をガチャガチャと鳴らせて駆けてくるルブラン小隊のいつもの三人に、レイヴンは頬を引き攣らせた。
――シュヴァーンだって?
――あの人魔戦争の英雄?
 今度はそんな風にざわめき始めた街の人々の反応に、いつものように「シュヴァーンじゃなくてレイヴンだって!」などと言おうものなら、シュヴァーンとして返事をしたも同然だ。
「おお! ここにおられたのですな、シュヴァ……」
「おっさん、取り敢えず一緒にギルドユニオンに……」
「いえ、是非ヨーデル陛下の元にご同行を……」
 相変わらずの大声で呼ぼうとしたルブランと、帝都でユニオンの名など出したユーリと、皇帝まで持ち出したフレンと――
 衆目の中で考え無しな三人に、頭の中で何かが切れる音を聞いたレイヴンは、素早く変形弓を取り出してそれで三人に足払いを掛けた。
 情けなく尻餅をついた大の男三人に、引き攣る笑顔を向け、低い声で告げる。
「全員、少し黙ろうか」
 それぞれに付き合いの短くない三人は、それでレイヴンの本気の怒りが分かったらしく、青ざめたまま無言で頷く。
 レイヴンはやれやれとため息をついて、空を仰いだ。
 三人の用件の察しは付いているが、全て頷けるものではない。
 けれど、これも自分の十年間の落とし前に他ならなかった。


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「新設部隊隊長への就任を保留にしているそうですね? このまま僕にも会っていただけないのではないかと、心配してしまいました」
 謁見の間での挨拶もそこそこに、強烈な先制攻撃を繰り出され、レイヴンはぐうの音も出ずに唸った。
「殿……いえ、陛下、それは……」
「シュヴァーンが駄目なら、代わりに弟のレイヴンでも良いぞ。いっそ儂の役職をくれてやろうか」
「謹んでご辞退申し上げます!」
 ドレイクまで一緒になってそんなことを言うので、レイヴンは即答で断った。
 騎士団顧問などに就いた日には、名誉職なので勅命次第でその立場はどうとでもなり、下手をすれば騎士団長より上位の権限さえ与えられかねない。
「お前も分かっているだろう。この状況下で、お前ほどの人材を姫様の道楽だけに付き合わせておく余裕など無い」
 道楽とは辛辣な物言いであるが、この老騎士の言動には慣れているのか、エステルは怯まず食い下がった。
「師匠、聞いて下さい! 私は決して副帝の仕事を疎かにしたりは……」
「そういう問題ではありません。以前から申し上げている通り、ご自身のお立場を考えなさいと申し上げているのです」
「……ドレイク、エステリーゼが望むのなら、僕は……」
「陛下は姫様に甘すぎます。曲がりなりにも副帝に就かれたからには、陛下と同じ責任が姫様にもあると考えて然るべきです」
 ドレイクの言うことは間違いではないので、エステルもしゅんとして項垂れ、ヨーデルもそれ以上の擁護は出来ないようだった。
 さて、と息をついてレイヴンはゆっくりと口を開く。
「ところで、ヨーデル陛下、ドレイク殿。俺からもお耳に入れたいことが。先ほどフレンにも話してきたんですが……」
 そう前置いて、フレンに話した内容――幸福の市場に協力して各地への必要物資運搬の手助けをする算段を説明すると、二人も異論はないと頷いた。
「本来、帝国が担うべき事柄です。元々、幸福の市場は帝国とも協力関係にありますし、もちろん助力は惜しみません」
「民の為に進んで力を貸すとは、気高い騎士の名にふさわしい。いま私が訓練を付けている新兵たちにも是非協力させて貰いたい。彼らの経験にもなる」
「ありがとうございます。ところで、もう一つお願いしたいんですが……」
 二人の同意に慇懃に礼をして、徐に付け加えた。
「今回のことには、エステリーゼ様のお力もお借りします」
「えっ、私もです?」
 お願いとは言いつつ、断定で言い切ったレイヴンに、ヨーデルは首を傾げた。
「エステリーゼの力、ですか」
 ヨーデルが皇帝家の力――満月の子としての力をエステルに使わせることに気乗りしないのは承知しながら、レイヴンは尤もらしく頷いた。
「そうです。姫様にしか出来ない仕事です」
「……姫様にしか出来ないのであれば、致し方ありますまい。シュヴァーンよ、お前を信じて預けて良いのだな?」
「それはもう! …っと、俺はレイヴンですが」
 ドレイクの言質は取ったと、レイヴンは跪いていた体勢から身軽に立ち上がった。