Tales of Vesperia本  「にじのあまおと」

B5オフ 48P ¥600 190809発行

TOV、レイヴン中心オールキャラ。シュヴァーンとフレン多め。漫画と小説で一つのお話になってます。
平和になって数年後、シュヴァーンとして騎士団副団長にと乞われるお話。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


 ――「急ぎ、皆を集めよ」
 朗々たる声で告げられた一言は、あまりに唐突で脈絡がなかった。深い水色の双眸が静かな海のようにエステルを見つめていた。
 これが全ての事の始まりだった。

 

「それで、その有難いお達しのお陰で、めでたく全員集合ってわけか」
「ユーリ! 失礼だろう!」
 到着して早々、彼らしい皮肉と共にユーリは机の上に腰掛けた。早速、自分の物だとばかりに腕の中に確保した果実盛に噛り付き、その傍らでラピードは定位置のように丸くなる。部屋の主であるフレンが眦を吊り上げても、いつものことなのか彼らは何処吹く風のようだ。
 城でのドレスに身を包んだエステルも、相変わらずの二人と一匹に苦笑して、みんな忙しいのにごめんなさいと謝罪を口にした。
 お行儀が良いとは言えないユーリの後から続いたカロルは、ここ数年で首領が板に付いてきたのを示すように、落ち着いた笑みを浮かべた。
「全然大丈夫だよ。けど、ほんとに珍しいよね。みんなに会えるのは嬉しいんだけど、最初から全員呼ばれるなんて」
「それだけ大きなヤマという訳じゃな。海底遺跡の調査か無人島の探索だと良いのう」
 凛々の明星(ブレイブ・ヴェスペリア)のメンバーだけではなく、今やギルド海精(セイレーン)の牙を再建して忙しくしているパティや、帝国騎士団団長のフレンも最初から加わっての話というのは、確かに珍しい。
「…とにかく、話を聞きなさいよ。エステル、お願い」
「あ、でも……」
 既に相談しているリタが話を振ってくれたが、エステルはまだ揃っていないメンバーがいることに気づいて視線を彷徨わせた。誰を探しているかに気付いたジュディスが、妖艶に首を傾げる。
「あら、そう言えばおじ様がいないようだけれど…?」
「あぁ、シュヴァーン隊長なら別件の会議に参加いただいているんだ。でももうそろそろ……」
 フレンの言葉に、全員が微かな違和感を覚えた。
 しかしそれが形になる前に、当の本人が賑やかに現れる。
「いやー、遅くなってすまんねー。ほんと長丁場で疲れたわー!」
「お疲れ様です、シュヴァーン隊長。結局僕の分までお任せしてしまって申し訳ありません」
「いやまあ、乗りかかった船だしねぇ。それに、いい加減フレンちゃん一人で抱えてたら倒れるってもんよ。青年たちからも何とか言ってやって……て、どったの、皆して黙っちゃって」
 集まった最後の一人である彼は、きょとんと目を瞬いたが、面食らったのは仲間達――フレン以外の面々である。
「……そっちこそどうしたんだ、シュヴァーン」
 みんなを代表してユーリが敢えてその名で呼べば、彼――何故か騎士団隊長主席としての略装で髪を下したシュヴァーンスタイルの――レイヴンは、やっと自分の恰好を思い出したかのように体に手を当て、視線を泳がせた。
「あー…これはあれだ。……おっさん、ちょっと着替えて来るわー!」
 彼らしからず言い訳の一つも思い付かなかった様子で、慌てて逃げ出したその背が消えて、扉がバタリと閉じると、全員の視線はどういうことかとフレンに向けられた。
 先ほどフレンの言葉に違和感を抱いたのは、フレンがレイヴンのことを当たり前のように『シュヴァーン隊長』と呼んだからだったのだ。
 しかし、こちらも貫禄が付いてきた騎士団長は、仲間の視線を全て受け流して、上機嫌に微笑んだだけだった。


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「あまり下がりすぎるな! 前線を維持するんだ!」
 変形弓で援護しながら駐留部隊の指揮を取って巨大獣(ギガント)討伐に出たレイヴンだったが、圧倒的な戦力差の前に持ちこたえるだけで精一杯の状態だった。
「……動きが固いな…周りが見えてない」
 呟いて、魔物に背を向けた騎士の援護に一矢放ち、別の騎士の手助けにと一矢放つ。
 思えば、マンタイク駐留の騎士団には今までほとんど接点が無かった。ギルドユニオン側で動く時もせいぜいノードポリカまで来るのが関の山だったし、騎士団でシュヴァーンとして動く時も帝都や近くの部隊の調練が多かった。
 個人的に嫌な思い出のある砂漠には近付きたくなかったというのもあるかもしれない。無意識で避けていた可能性も。
「隊列を乱すな! 隙を作れば崩されるぞ!」
 檄を飛ばしながら自分の周りの敵を弾き飛ばし、乱れた息を整えた。
「……こいつはちょっとヤバイかな……」
 小さく独り言を呟き、剣型に変えて巨大獣との距離を詰めた。
 ――思ったより練度が低い。
 それが実際に指揮してみてのマンタイク駐留部隊の感想だった。彼らが悪いというよりも、調練などを怠り、この状態のままにしていた騎士団全体の責任だろう。帝都の部隊は元より、他の都市部隊の若年層と同様のレベルだ。たまたま経験の少ない者ばかりが集まったのか、部隊長の能力不足かは分からないが、もっと早く各地の駐留部隊の編成をしていれば良かったと、今更ながらに後悔する。
 これが終わったら、真っ先に隊編成してやる――そう内心で悪態をついて、そしてふと笑ってしまった。
 ――すっかりその気になってやがる。
 我ながら、そんな自分の変化がおかしかった。死人のように過ごした十年からすれば、こんなに意欲的な考えをするようになるなんて嘘のようだ。
 そしてふと、シュヴァーンとして初めて教官を務めた訓練の頃を思い出した。あの頃は全てが虚ろで、生きる事にさえ意味を見出せず、教えた訓練生たちが誰でどんな顔だったのかさえ覚えていない。教本通りの型や陣形などを実戦として教えていた筈だが、こうして巨大獣級の魔物と戦闘になった事もあった。
 大きな敵に部隊として当たる場合、前衛と後衛に別れて、攻撃しては離れるの一撃離脱で敵の体力を削っていくのがセオリーだ。だが、防御などする意味も無かった死にたがりのシュヴァーンは、攻撃攻撃攻撃でひたすら相手を切り刻んで終わらせていた。
 あれが教官だというのだから、当時の訓練生もさぞ怖かったことだろう。何の手本にもならない。
 過去の苦い思い出を息をついて振り払い、巨大獣の前足に深く斬り付けてから即座に離れた。そして後ろに跳躍しながら叫ぶ。
「弓隊、放て―― !」