ドラゴンクエスト11本  「ORIGIN -後編-」

B5オフ 48P ¥600 181230発行

ドラゴンクエスト11、主人公中心ホメロス多めオールキャラ。
漫画と小説で一つのお話になってます。
前後編の後編です。
魔堕ちしたグレイグを助ける為、ホメロスを仲間に加えて絆を育みながら邪神討伐に向かうお話。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋





■novel■ 一部抜粋

「こんな戦い方では非効率すぎる!」
 美しい月夜の晩、寄せては返す波の音も心地良いリゾート地ソルティコ。
 小洒落たバーラウンジで年代物のワインでも傾けていそうなメンバーもいたが、場所は海沿いでは無くメインストリートに面した賑やかな界隈で、海鮮料理が自慢の大衆酒場である。
 その一画で、金の長い髪を鬱陶しそうに払いながらホメロスは叫んでいた。
「全員で力押しなど、体力と魔力の無駄でしかない!」
 言葉尻と共に置いたのは麦酒が並々と入った大きなジョッキで、勢い余って泡が飛ぶ。
 イレブンは、意外な言葉に驚いて食事の手を止めた。今まで戦闘に参加しても単独での攻撃が多かったホメロスが、連携などについて自分の意見を言うのは初めてである。
 面食らったような旅の一行の中で、一早く反応したのはカミュだった。――尤も、呆れたようなため息であったが。
「いきなり何だよ。これが俺たちの戦い方なんだ、いい加減慣れろよ」
「慣れる慣れないの話ではない!」
 反論すると、カミュから視線を向けられたベロニカが困惑したように首を捻る。
「お言葉だけど、先制攻撃でカミュが仕掛けて、もう一人の前衛がマルティナでしょ。中衛には剣と呪文が使えるイレブン・シルビア・ホメロスで、後衛から私とセーニャ、ロウおじいちゃんが呪文で攻撃とサポート――これで今まで別に困らなかったわよ?」
「それは個々の役割であって、戦略ではない」
 実年齢はともかく見た目は幼女のベロニカに声を荒げるのは流石のホメロスでも躊躇われたのか一旦腰を落ち着けたが、苛立ちまでは隠せていない。
「……ロウ様は――」
 カミュたちでは話にならないとばかりに、次は一番の年長者に水を向けたが、ロウはジョッキ片手に申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「すまんな、わしは戦術はからしきなんじゃよ。国では騎士団に頼れる者がいたでの。せいぜい己個人の呪文や武術に関する文献を調べておったくらいなのじゃ」
 髭を撫でながらの好々爺の言葉は、かつてのユグノア王国先王であったロウの身分を思えば不思議はないのだろう。ユグノアは精強な騎士団を有していたというし、娘婿となりロウの跡を継いだのは騎士団長を務めていたアーウィン――つまりイレブンの父である。
 ロウからはすんなりと引き下がったホメロスは、ならばと次に、セーニャと乙女な会話を繰り広げていたシルビアに白羽の矢を向けた。
「お前なら父君から騎士道の一環として叩き込まれているだろう、ゴリアテ」
「ちょっと! そんないかつい名前で呼ばないでよ!」
 つい先ほど、その正体がソルティコ領主ジエーゴの息子ゴリアテだと判明したシルビアは、身をくねらせて抗議し、ホメロスは顔を引き攣らせた。
 この二人は昔に面識もあったらしいし、ホメロスはジエーゴの元へ剣の修行に行っていたグレイグからもいろいろ話を聞いていたらしいが、旅芸人として成功を収めている女言葉のシルビアがそれとは全く気付かなかったようだ。
「人は変われば変わるものだな……昔は名家の御曹司然とした爽やかで実直な男だったが……」
 ジエーゴ邸で呆然とそう呟いていたホメロスは記憶に新しい。だが今は、そこに活路を見出したようにシルビアに迫った。
「ジエーゴ師匠もご子息のゴリアテも、真に騎士道に精通した素晴らしい方たちだ!――そうグレイグも絶賛していたぞ」
「ああ……グレイグはねぇ……パパと気が合ってたから」
 どこか遠い目をしたシルビアに、ホメロスは改めて問い掛ける。
「騎士道に精通しているのだから、力押しだけではなく戦略が大切だと言うことも分かっているだろう?」
「ええと……ホメロスちゃん? 非常に言いにくいんだけど、ウチのパパってそういうタイプじゃないのよね。ソルティコの騎士達を連れて魔物討伐に行く時も、いつも大将自ら一番に飛び出して行って大暴れするのよ。これが一番早い!って」
「馬鹿な……」
 それではまるでグレイグのようではないか……と呟いて、ホメロスは項垂れた。恐らく、ジエーゴはそのグレイグの師匠なのだから、この師匠にしてこの弟子ありとでも思ったのだろう。もしかせずともグレイグの脳筋をフォローする為にずっと苦労してきたであろうホメロスが、ここに来て初めてそのルーツを理解したのかもしれない。
「恥ずかしいけど、この私もパパに影響されて似たような感じだったしねぇ」
 確かに、一見頭脳派なシルビアだが、その戦い方はだいぶ大雑把であることはここにいる仲間達は知っている。
 疲れたようにため息をついたホメロスのジョッキに、くすくすと笑いながらマルティナが酒を注いだ。
「ホメロスは、昔からいつも片手に本を持っていたものね。とにかく、食事の時くらい楽しくいただきましょう。それとも、もう酔ってしまったの?」
「いえ、そういうわけではありませんが……普段あまり飲み慣れない酒なので」
 姫君にお酌をされて居心地の悪そうなホメロスは、そう言えばいつもは葡萄酒を飲んでいた気がする。カミュが、飲んでる酒までキザな奴だとからかっていた。
 みんなが飲んでいる飲み慣れない酒を自ら飲み、戦闘の連携戦略について意見を言う……ふわりと心が温かくなったイレブンは、気が付けば意気揚々と宣言していた。
「明日の戦闘は、ホメロスの戦略を試してみよう!」
 思い思いに上がった驚きや感嘆の声ににこりと笑みを返して、訝しげな視線を向けてくるホメロスには更に深い笑みを返した。

 


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 いよいよ、邪神ニズゼルファとの決戦の時がやってきた。
 かつて勇者の星と呼ばれた黒い太陽を前に、ケトスの上でイレブンは仲間達と頷き合った。
 ケトスの角が光り輝き、咆哮を上げて黒い太陽に突撃する。抵抗する闇の波動と聖なる光が激しく拮抗し、イレブンの勇者の力も加わってようやく闇のバリアを突き破ることに成功した。
 勢いよく中に飛び込むと、そこは、深い静寂の世界だった。
 夜の星空の中に迷い込んだような……小さな煌めきは散らばっているが、一切の生の息吹を感じさせない、濃厚な闇の世界。
「――ここまで来るとはな……」
 朗々と低い声が響き、闇の中から姿を現したのは、禍々しい漆黒の鎧に身を包んだかつての頼もしい仲間だった。
「グレイグ!」
 しかし、ホメロスが声を上げるのと、カマイタチのような衝撃波が襲いかかって来たのは同時。
「――いけない!」
 とっさに前に出たベロニカがマホカンタを張り、攻撃を退ける。
「グレイグ、正気に戻って。本来の貴方は、魔になんて屈しない人の筈だ」
 グレイグがここで出てくるのは想定通りだった。手分けして世界中の街で聞き込みをしたが、全く目撃者がいなかったからだ。誰の前にも姿を現していないのなら、黒い太陽の中しかない。
 イレブンは真っ直ぐにグレイグを見つめて言ったが、既に剣を抜き、敵意をむき出しにしているグレイグの目は何も映していなかった。
「邪神ニズゼルファこそ、我が王。王の願いこそこの世の真理」
 ホメロスが魔物になった時と違い、人間らしい自我や人格を感じなかった。ただ操られて無機質に動く人形のようだ。
 イレブンはホメロス、次いでロウたちと視線を合わせ、あるものを取り出した。それは、ホメロスに力を貸して欲しいと請われた後、仲間全員で知恵を出し合い、辿り着いた可能性だった。
 ネルセンが言った『本来の自分を強く思い出させるような状況で、魔の力を体から追い出すことが出来るならば、あるいは……』――あの言葉を信じて、『本来の自分』を映し出すものを借り受けてきたのだ。
「己を思い出せ、グレイグ!」
 ホメロスが呼びかけ、イレブンが掲げたのは、ラーのしずくによって真の力を取り戻したやたの鏡だった。
 ホムラの里で呪われて火竜化していたハリマを人間に戻したように、邪神に魅入られ魔物化したグレイグにも多少なりとも効果はあると踏んだのだ。
 高く掲げた鏡面が光り輝き、姿を映されたグレイグが呻き声を上げてたじろいだ。
「おお! 効いてるみたいだぞ!」
「今じゃ! 効きそうなものは全て試すのじゃ!」
 カミュとロウの言葉に、セーニャも杖を掲げた。
「魔を清め、呪を祓え!」
「聖者の詩!」
 ロウのおはらいとセーニャの最大の回復魔法が発動されたが、いずれも闇の霧で阻まれてしまった。
 ならばと、イレブンも鏡をカミュに預け、自分たちで新しく作った勇者のつるぎを掲げたが、全ての悪い効果を打ち消す筈の聖なる力も、邪神の気配を纏ったグレイグが払いのけてしまった。
 だが鏡の方を見ると、人間の姿のグレイグが映し出され、苦しそうにもがいて手を伸ばしている。
「こうなったら、後は力尽くでやるしかないわ!」
「みんな、グレイグはただでさえ馬鹿力だから気を付けて! ホメロスちゃん、指揮をお願いね!」
「ゴリアテ、貴様が壁役になるか?」
 元々グレイグと面識のあるマルティナ、シルビアが油断無く構え、ホメロスも青筋を立てながらも、予め何通りも用意していると言っていた対グレイグ用の戦術を臨機応変に組み立てて指示を飛ばしていく。
 今やすっかりパーティの司令塔となったホメロスに、全員信頼して戦っているのを見て、イレブンはグレイグを見つめた。
 邪神の力を得て魔物の姿となり、強力な攻撃を仕掛けて来るグレイグだが、ホメロスの幼馴染みとしての彼こそ、今のこの状況を誰よりも喜んだに違いないのに――
 やがて、タイミングを見計らっていたホメロスとシルビアの連携技が決まり、とうとうグレイグが膝をついた。
 弱っている今のタイミングでもう一度やたの鏡を掲げて口々に呼びかけるが、グレイグは苦しむばかりで、幾重にも取り巻いている闇の気配は晴れない。
「これ以上見ていられないわ……」
「くそっ、他に手はねぇのかよ!」
 これはあくまで、世界を守る為の邪神との決戦だ。手を尽くしてもグレイグが戻らない時には諦める――そう、前もって話し合っていた。
 イレブンがホメロスを見遣ると、握りしめた拳が震え、血が滴っていた。
 本当にどうにもならないのか、一番博識なロウに視線を向けたイレブンに、ロウは腕組みをして唸る。
「むぅ……ここは邪神の領域じゃからのう……ここで闇を退けるのは難しいのやもしれん……」
「ここが駄目なんだったら、グレイグのおっさんとっ捕まえて、一時撤退ってのはどうだ?」
 何とか打開しようとするカミュの言葉に、しかしベロニカとセーニャが反論した。
「駄目よ! いくらケトスが聖獣って言ったって、今の突入でほとんど力を使い果たしてしまっているわ」
「それに、一度退いて結界を強化されたら、次は突破できるかどうか……」
 引くことは出来ない。かと言って、そう簡単にグレイグを諦めては、失われた時を求めた意味が無くなってしまう。
「………僕が行く」
 イレブンは、紋章の輝く左手を握りしめて、前に進み出た。
 殺してしまうぐらいなら、イチかバチか、退魔の力を持つ勇者のつるぎを直接グレイグの体に突き立てれば、あるいは……