ドラゴンクエスト11本  「ORIGIN -前編-」

B5オフ 48P ¥600 180810発行

ドラゴンクエスト11、主人公中心オールキャラ。
漫画と小説で一つのお話になってます。
失われし時を求めたら旅立ちまで遡ってしまい、それによってグレイグとホメロスの立場が入れ替わってしまった世界のお話。
前後編の前編です。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋

 前回と同様にユグノアの首飾りを見せて城の中に通されたイレブンは、重々しく開いていく扉を前回とは違う感慨で見つめていた。
 育ての祖父テオの遺言に従って訪ねたデルカダール王に、勇者としての使命の話をされるのか、自分の出生の話が聞けるのかと緊張していた以前とは違い、今は警戒しか沸かない。
 何しろ、勇者ではなく悪魔の子として捕らわれるのが分かっているのだ。しかも待っているのは、デルカダール王ではなく、その皮を被った魔王ウルノーガである。
やがて開ききった扉の先には、戦闘経験を積んだ今では分かる、兵士達の敵意が溢れていた。
 負けてなるものかと拳を握り、毅然と進んで最奥に辿り着くと、玉座に腰かけたデルカダール王、そしてその両脇に二人の将軍グレイグとホメロスが佇んでいた。
「旅の者よ。ようこそ、デルカダール城へ」
「…ユグノアの首飾りか……」
 芝居がかった仕草でホメロスが礼を取った後、玉座の王の呟きにイレブンは視線を上げた。
「よくぞ来た、旅の者よ。わしがデルカダールの王である。こうしてそなたが来るのを長年待っておった。ようやく会うことが出来、嬉しく思うぞ」
 悠然とした笑顔で歓待の言葉を口にする王は、自分の正体にイレブンが気付いているなど夢にも思わないだろう。
「――うむ、そのアザこそ勇者の印! そなたこそあの時の赤ん坊……」
 ニヤリと笑った顔が、父アーウィンの絶望の夢で見た、父を殺したその瞬間の顔と重なって、ざわりと、嫌悪とも憎悪とも付かない感覚が這い上がった。
「……時に勇者よ。そなたはどこから来たのだ? そなたをここまで育て上げた者に礼をせねばならん。教えてくれぬか」
 人間を騙す狡猾な魔物の言葉――ここで自分がイシの村のことを教えてしまったが為に起こった悲劇を思えば、今度は到底答える訳にはいかない。
 だがどう切り抜ければいいのか……と言葉に詰まったイレブンに、傍に居たホメロスが恭しい仕草で続けた。
「我々はずっと勇者を捜していましたが今日まで見つけることはできませんでした。ということは、かなり山奥の困窮した暮らしぶりのはず……王からの謝礼は必ずや勇者を育てた労に報いることでしょう」
「……具体的には、何を貰えるんですか?」
 何とかその場を凌ごうと聞いた言葉に、ホメロスは白々しい笑みを更に深めた。
 それに濃厚な闇の気配を感じた瞬間、イレブンの背に収まっていた剣――勇者の剣の代用にと持っていた魔王の剣が低く鳴動し始めた。
 表現しがたい人間の聴覚に不快なそれに全員が耳を覆った刹那、イレブンの影から闇色の触手のようなものが飛び出し、なんと一目散にホメロスの胸を貫いた。
「なっ…ホメロス!」
「ホメロス様ッ!!」
 グレイグと兵士たちから驚きの声が上がり、イレブンも目を瞠ってたじろいだが、引き抜かれた闇色の触手が捕えていたものが地に落ちて割れた音ではっと我に返った。
 それは、イレブンにも見覚えのある――魔物へと堕ちたホメロスが持っていた闇のオーブだった。かつて見た時よりは弱いものの『魔』の力を宿したオーブは甲高い音を立てて割れ、中から黒い靄が溢れ出して霧散していった。
「これは一体……」
 呆然と呟くグレイグと、片膝を付き夢から覚めたように瞬きを繰り返すホメロスの後ろで、デルカダール王が憎々しげに顔を歪めた。
「まさか……」

 


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 始祖の森を抜け、天空の祭壇へオーブを納めたイレブンたちは、虹の橋を渡って命の大樹へと足を踏み入れた。
 枝や幹を通って、大樹の心臓部――神域へと足を進める。
やがて視界が開け、根のようなもので覆われた金色の塊――大樹の魂を見つけて、イレブンの心臓が一度大きく鼓動した。
 大樹の魂の中には、勇者ローシュの時代に創られた勇者の剣が眠っている。勇者の力を奪われ、剣を奪われ、大樹の力をも全て奪われ、前回はここでの完全敗北のせいで世界が一度滅んだのだ。多くの命が失われた。大切な仲間であるベロニカの命も――。
「これが大樹の魂……なんという大きさなのかしら」
 仲間たちが感嘆する中、イレブンは一人周囲の気配を探ってみたが、何も感じられなかった。ユグノア城跡での件もあるし、前回と同じタイミングで事が起こるとは限らないが、いまこの時が一番気を付けるべき場面であるのは変わらない。
「さぁ、イレブンよ。大樹の魂の中にある勇者の剣を手に入れるのじゃ!」
 ロウから促され、イレブンはゆっくりと足を踏み出した。全神経を背後への警戒に回しながら、光へと手を翳す。
 勇者の紋章が光り輝き、それに呼応するように生い茂っていた根もするりと解け、目の前に勇者の剣が現れた。
 ――警戒はしていた。
 何の気配も感じなかった。
 しかし、背中の魔王の剣が一度低く鳴動した気がして、イレブンは反射的に振り向いて――目を瞠った。
「! ベロニカ、後ろ!」
「えっ……」
 彼はただそこに立っていた。一瞬違和感も無かったのは、彼がかつて旅の仲間としてイレブンを支えてくれた一人で、みんなの中にいるのが自然な光景だったからだ。
「グレイグ―― !」
 いつの間にか後ろにいたグレイグは、ベロニカの利き腕を掴んで宙に持ち上げていた。
「ちょっと! 離しなさいよ!」
「放せ、この野郎!」
 全員素早く臨戦態勢を取り、一番近くにいたカミュが武器を構える。
 しかし、それよりも早くグレイグがベロニカを無造作に投げ飛ばし、小さな体は大樹の幹に叩きつけられた。
「ベロニカ!」
「お姉さま!」