Tales of Vesperia本  「ノスタルジア」

B5オフ 48P ¥600 170811発行

TOV、レイヴン・ユーリ・フレン中心本。
漫画と小説で一つのお話になってます。
クリア後の世界で劇場版の街シゾンタニアを復興するお話。シュヴァーンとナイレン隊長の昔語りなど。
劇場版のキャラクター等が登場します。未見の方でも分かるように気を付けていますが、ご了承ください。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


 ――あの時、シュヴァーンが別の行動を起こしていたら、ナイレンも死なず結界も壊れずに済んだだろうか――
 今更無意味な考えに息をついて、懐かしい土地を見下ろした。
 近づいてくる街に付きまとう感情が後悔の念であることを自覚しているからこそ、ユーリやフレン、元ナイレン隊の面子と共にする今回の依頼は、レイヴンにとって、避けては通れないケジメの一つだった。

 

     ◆◇◆

 

「――移民団と新しい街の警護?」
ユーリが最初にその話を聞いたのは、遡ること三ヶ月前、帝都ザーフィアス周辺が雨期に入ったばかりの頃だった。
急に降りだした雨から逃げる為に駆け込んだ軒先で、数日別行動を取っていたカロルから待ちきれないというように切り出されたのだ。
「うん! とは言っても、街一つの問題だから主動するのは帝国なんだけど、規模が大きいからこそギルドと協力してやるみたいなんだ。それで、フレンから僕たち〈凛々の明星〉(ブレイブ・ヴェスペリア)にも声が掛かったって訳! 考えてみれば騎士団長から直々の指名なんて、僕らスゴイよね!」
「ご指名ねー」
雨に濡れた黒髪をかき上げながら、思わず半眼で苦笑してしまう。
そういう言い方をすると大仰だが、このカロルを首領(ボス)に戴くギルド〈凛々の明星〉には、その現騎士団長や、今では副帝を務めている姫君や、帝国の誇る天才魔術士や、元大海賊ギルド首領や、元騎士団隊長主席かつギルドユニオン幹部といった面々が准構成員のようなものとして気ままに活動している。
正式メンバーであるユーリやジュディス、ラピードも闘技場ではちょっとした有名人だし、カロル自身も世界を救った立役者の一人として、若くしてギルドを束ねる期待のルーキーとしても、特にギルド社会では注目を集めているのだが、以前あれだけ虚栄を張っていたというのに、今では逆に周囲の変化に疎い所が微笑ましい。
「――まあ何にせよ、『義をもって事を為せ』だろ? 手が足りなくて困ってんなら、手を貸すさ」
なぁ、ボス。と、ユーリが彼らギルドの掟を口にして問えば、カロルもそうだねと大きく頷いた。
「勿論だよ。僕も、この依頼を受けたいと思ってる。――だけど……」
「なんだ、いわく付きか?」
珍しく歯切れの悪いボスをそう茶化せば、そんなんじゃないけど…と視線を返された。
「フレンがさぁ、この依頼を受けるかどうかはユーリから返事して欲しいって言うんだ」
「俺から?」
突然出て来た自分の名前に、ユーリは目を瞠った。
今や騎士団長という帝国騎士のトップにまで上り詰めた幼馴染は、相も変わらずユーリには容赦が無いし、昔と変わらず頑固で潔癖で融通が利かない所もあるが、道理に反するようなことはしない。
凜々の明星への依頼でも、首領であるカロルを通さずにユーリに是非を問うようなことは今まで一度も無かったというのに。
「ったく、フレンの奴……一体何のつもりだ?」


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「そんな素敵な隊長さんだったら、是非とも会ってみたかったです」
「――何だかレイヴンみたいな人だね」
感嘆のため息をついたエステルを見遣って、カロルが思いついたようにそう言った。
俄に視線の集まったレイヴンは、今まで隅で静かに傾けていた杯を取り落としそうになりながら、目を瞬かせる。
「……え? 俺様!?」
「あー……確かに、似てなくもなかったか。普段はあんま隊長っぽくなくてチャランポランだったしなー」
言われて、フレンも考えてみた。
シュヴァーンとは全然似つかないが、レイヴンとしての彼なら少し似ている。いや、もしレイヴンが戦争の前線に参加せず、アレクセイとも深い関わりを持たず、素のままで隊長をやっていたら、あんな感じだったのかもしれない。
「いやいや、俺様、あんなに豪快じゃなかったわよ」
即座にそう否定したレイヴンに、エステルが首を傾げた。
「そう言えば、シュヴァーンは面識があるんです?」
純粋な質問に、フレンも静かにレイヴンを見つめた。自分が正面から聞いた所ではぐらかされる気がしたが、レイヴンがエステルには頭が上がらないのは、見ていれば分かる。
「んーそうね……ここと帝都は距離があるから、顔を合わせた回数はそんなに多く無いけど、いろいろと面白い御仁だったわねー」
「面白い……私はお話したことありませんでしたから、シュヴァーンの知るナイレンのことも聞いてみたいです!」
「いや、嬢ちゃん、別に大した話なんて無いから……」
「人の昔話聞いといて、フェアじゃないぜ、シュヴァーン? なぁ、先輩たちも聞きたいだろ……て、どうしたんだ、お前ら」
ユーリの言葉に目を向けてみれば、ヒスカとシャスティルが怪訝な顔で固まっている。
「? どうしたんですか? 先輩?」
フレンも声を掛ければ、ヒスカがギギギと顔をこちらに向けて、恐る恐るといった体で口を開いた。
「シュヴァーン隊長…? いま、シュヴァーン隊長って言った……?」
凜々の明星の面々は顔を見合わせて、本人以外が一斉に指さした。
「「「――シュヴァーン」」」
聞いた瞬間、双子の顔が全く同じに引き攣るのを、フレンは見た。
「そ…そんなっ……!」
そして、がっくりと打ちひしがれたように項垂れ、シャスティルは机に突っ伏し、ヒスカはビールジョッキを卓上に叩きつけた。
「シュヴァーン隊長と言えば、人魔戦争の英雄で、隊長主席なのに偉ぶらなくて、強くて格好良くて女の子に優しいって、騎士団女子の間では憧れの的の……あのシュヴァーン隊長!!??」
「女と見れば馬鹿にするか、言い寄るかしか能の無い騎士団の男共の中で、フェミニストで気配りも欠かさなくて、女性団員にも差別しない上、女の子扱いまで絶妙に上手いっていう……あの! シュヴァーン隊長!?」
怒濤の勢いに押されて、ユーリは珍しくも若干言いにくそうにしながら、視線でレイヴンを示した。
「……どんな幻想抱いてたか知らねーが、隊長主席やってたシュヴァーンは、間違いなくコレだぞ」
「そんなっ! 私たちの憧れをどーしてくれんのよ!」
「ひどいわ! 詐欺よ!」
酔いも手伝ってか、泣きそうな勢いで憤慨する双子に、フレンが恐る恐るレイヴンを見遣ると、尊敬する先輩はぐったりしていた。
「……まぁ、初っぱなから言い寄りまくってた軽薄男が憧れのフェミニスト隊長ってのは、しょっぱい現実だな」
「………………もう、勘弁して」
的確すぎるユーリのつっこみに、レイヴンは更に撃沈する。
その後も、更に街の人達とも輪を広げながら、大いに食べて笑う楽しい酒宴は続いた。
以前は乱闘にまでなったギルドの荒くれ者たちも一緒になって街の復興に向けての意気込みを語り合い、その輪の中にナイレンの姿も見える気がして、フレンはそっと目を閉じる。
無性にあの豪快な笑顔に会いたいと思いながら、懐かしい街での夜は更けていった。