Tales of Vesperia本  「猫騎士」

A5 20P ¥200 131230発行

シチュエーションだけ某ドラマパロ本。
ある日、シュヴァーンに下った暗殺指令のターゲットは……猫!?
シュヴァーンと猫の生活、そして時を経て再会したレイヴンと猫のお話。


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


「は? ……もう一度言っていただけますか」
 帝都ザーフィアスの王城内にある帝国騎士団団長の執務室――それも正規の執務室では無く、団長自らが蒐集した秘蔵の古文書等が多く眠っている為、本当に極限られた者しか入室を許されない城内の奥まった一室。
 そこで、執務机を間に団長のアレクセイと隊長主席のシュヴァーンは向かい合っていた。
 それ自体は珍しいことでは無いし、公には出来ない密命が下されるのも最早日常化したことではあったが、シュヴァーンが下された命令を聞き直したのは初めてのことだった。
 アレクセイは相変わらずの不機嫌そうな表情で、しかし今度は失望を交えたため息も足して、一度目と同じように淡々とその命令を告げた。
「君に今回任せたい相手は、猫だ。先日、ハーディス侯爵の屋敷に生まれたばかりの仔猫を闇に葬って来て貰いたい」
「……猫…ですか………」
 古文書と一緒に蒐集されている様々な魔導器――その大部分はどんな用途に使われるものか想像も付かない形状をしている――が時折上げる、どこか間の抜けた起動音だけが部屋の静寂に漂っていたが、かと言って冗談でしょうと切り返したり、ましてや笑ったりなど出来る雰囲気では無い。かつてのアレクセイならともかく、ここ数年の彼には冗談やユーモアなど存在しないことを、シュヴァーンは誰よりも良く知っていた。
 詳しくはここに、といつものように命令書を渡され、もう用は済んだとばかりに別の案件に取りかかった様子のアレクセイに、ため息を飲み込んだシュヴァーンは、敬礼と共に踵を返す。
 どんなに非道だろうが無慈悲だろうが、はたまた今回のような突飛なものだろうが、所詮シュヴァーンは命令を断る権利など持ち合わせていないのだった。



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「いやぁー、しかし意外でありましたなー! シュヴァーン隊長がこんなに猫をお好きとは!」
「本当に驚きなのだ!」
「しかし似合っているのであ〜る!」
「……お前ら、面白がってるだろ」
 好き勝手言ってくれるルブランとデコボコ、それに笑っている他の部下達も睨み付けて、レイヴンは深くため息をついた。
 しかし、睨んでも凄んでも今の自分に威厳などというものが出せないのは分かっている。何せ、絶対に譲らない定位置とばかりに、猫がレイヴンの肩の辺りを陣取って離れないからだ。
 ずっと猫を肩に乗せたままの隊長の姿に、騎士団の隊員達は笑いを堪えたり、微笑ましい顔をしたりと、レイヴンにとって不愉快な反応一色である。
「失礼します、シュヴァーン隊長! またあの猫を保護したと……」
「レイヴン! 猫ちゃんを連れて帰って来たって……」
 頭を悩ませて戻って来ていた詰め所に、嵐のように飛び込んできたのは、現騎士団長であるフレンと帝国の副帝であるエステルの二人だった。
 ギルド凜々の明星の依頼で数日前一緒にこの猫を保護した彼らは、レイヴンと猫を見るなり慌てて捲し立てていた言葉を途切らせ、ほわわんと温かい視線を向けて来る。
「……何しに来たの、おたくら」
 半眼になって言ったレイヴンに二人ははっとなって謝ってきたが、レイヴンもいい加減疲れているのだ。
 何せ、本当に前触れ無く遭遇したその瞬間から、猫はレイヴンの足下に体を擦り寄せ可愛らしく鳴き、絆されて抱き上げたが最後、そのまま肩を陣取って……半日経った今に至るまでずっと傍を離れたがらない。