Tales of Vesperia本  「黎明クラシック」

B5 3
6P ¥500 130812発行

レイヴンと若シュヴァーンとヴェスペリア家で、漫画と小説。
十年前シュヴァーンがタイムスリップして来て、凜々の明星と一緒に事件の解決に当たるお話です。
虚空コミカライズの短髪シュヴァーンオマージュです笑


内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


 やれやれとため息をついて、しかし油断なく相手との距離を測ったレイヴンは、少し考えて道具袋から取り出した球状のものを軽く放り投げた。無造作に宙に踊ったそれをすかさず矢で射ると、球は盛大に破裂して忽ちカラフルな煙幕が広がる。
「へぇー、こりゃ便利ねぇ。流石リタっち」
 何者だとうろたえる不審者たちを尻目に、レイヴンは感心しながらも素早く距離を詰めた。
 破壊すると煙幕が広がり、すぐには消えず狼煙の役割も果たすこのアイテムは、仲間の天才魔導少女が本来の研究の片手間に作ってくれたものだ。
 煙幕の合間から何本かの矢を打ち込んだレイヴンは、気配を頼りに変形させた剣で切り込み、瞬時に不審者三名を地に沈めていた。
 直に煙幕を嗅ぎつけたラビード辺りが、他の仲間たちを連れて来てくれるだろう。携帯していた縄で不審者の拘束を終えたレイヴンは、やれやれと疲れたため息をついて天を仰いだ。
 いつの間にか、薄曇りだった空には重い雨雲が立ち込めており、ゴロゴロと雷まで鳴っている。
 この地方で急激な天候の変化などに遭遇した事はなかったが、遠い昔故郷で似たような空を日常的に見ていた。
 先ほどまで晴れていたにも関わらずこうした急激な天候の変化があった場合、必ずと言って良いほど突発的な嵐が起こるのだ――そのことを思い出したレイヴンは、これはマズイと顔を顰めた。
 誰か来てからなどと悠長なことを言っている場合では無いかもしれない。取り敢えずは自分たちが詰め所として使っている建物まで一人ずつ担いで行くしか無いかと腹を括った時には、豪快な雷が響いた。
「ゲッ……ちょっと早すぎでしょ!」
 愚痴を言う間にも早々と雨が降り始めていて、大粒なそれに、もし雹にでもなったら流石に可哀想だと、縄でぐるぐる簀巻きにした三人を屋根のある所まで運び入れてやる。
「ふー、こっから先はユーリでも待って……」
 独りごちながら振り向いた時、背筋に走り抜けた独特のヒヤリとした感覚に、レイヴンは反射的に身を捻って体の前に剣型の変形弓を差し入れていた。
 ギンという鈍い音と共に雨の中に弾き飛ばされ、間一髪で受け止めた一撃の重さを知る。
 直前まで何の気配も無かったと冷や汗をかきながら体を起こしたレイヴンは、最早バケツをひっくり返したように激しくなった雨の中、ゆらりとこちらに向き直った相手を見て眉を顰め、やがてゆるゆるとその双眸を大きく見開いた。
「おいおい……冗談だろ……」
 カラカラに喉が渇いて、喉に張り付いたような声だったろうが、轟然と降り続ける雨音で、それは自分の耳にさえ届かなかった。
 視界の大部分を奪う雨のせいで見間違えたのかと頭を振ってみたが、立て続けに二撃、三撃と打ち込まれる攻撃を捌く中で、目前の相手が夢でも幻でも無さそうだと知る。
 その太刀筋は、立ち合うのは初めてにしても覚えがあった。
 こちらに向けられた剣は深紅の鉱石を加工した世の中にただ一振りのもの――と思っていた物に酷似している。
 動きやすさ重視の軽装には随分昔に見覚えがあった。暗いダークグリーンの髪に、更に暗く淀んだ緑瞳も、幾度となく見たものだ――鏡の中で。
「シュヴァーン・オルトレイン……」
 その呟きが聞こえたでも無かろうが、唇の動きでも読んだのか、相手の目元がピクリと波打った。
 来る――そう身構えた瞬間、突然相手の体が崩れ落ちた。
 何が起きたのかと呆気に取られたレイヴンは、倒れた男の後ろに立っていた黒衣の青年を見てほっと肩の力を抜く。ひどく仏頂面であることを除けば、彼はまさしくこのとんでもない事態に現れた救世主に見えた。
「ユーリ」
 呼ばれた青年は、しかしすぐには応えなかった。今し方自身が手刀で意識を落とした男のその顔を確認すると、ひくひくと引き攣る米神を押さえながらレイヴンへと剣呑な視線を向ける。
「説明してもらうぜ、おっさん」
「……あー…うん。……おっさんにも誰か説明して欲しいわ」