Tales of Vesperia本  「流星群」

B5 52P ¥600 121230発行

TOV、レイヴンとユーリ中心のヴェスペリア家本。
漫画と小説で一つのお話になってます。
過去・現在のおっさんとユーリの関係と、新しい世界でおっさんが夢を追いかけるお話。




内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


「夜空に瞬くにかけて、お仕事お引き受けします」

 それはギルドの仕事を受ける際の決まり文句であったが、この時は殊更重々しく響いた。
 何しろ、依頼の内容が内容だったし、場所はいつものダングレストでもユニオン関連施設でも無く、荘厳なザーフィアス城の中枢――ある種の神聖な静謐さも流れた、皇帝玉座の前だった。
 それでも、若すぎる少年首領は緊張だけで硬くなっていたわけではない。
皇帝であるヨーデルとは帝位に就く前からの顔見知りであるし、何と言っても副帝のエステリーゼは半ば凛々の明星の一員のようなものだ。居合わせた面子も肩書きこそ錚々たるものだが、気心の知れた人間ばかり。特別緊張するメンバーでは無いものの、その場の空気と依頼内容に自然と全員の気持ちが引き締まっていた。
 いつもの宣誓の言葉さえ、一種の儀式めいたものに思えるほど。
 だが、その緊張感は、一人の男の登場によってあっさりと破られる。
「シュヴァーン・オルトレイン隊長主席のご到着です!」
 部屋の入口に控えていた侍従がその男の来訪を告げ、金色の鎧に身を包んだ英雄と呼ばれる騎士が堂々と――とはとても言えないどっと疲労を蓄えたくたくたの風体でため息と共に入室してきた。
「お呼びですか、陛下。最初に言っときますが、今日はお茶も剣の稽古もチェスも勘弁――」
「あ…あの、レイ……シュヴァーン? 今日は違うんです。その……」
「違うって、姫様。昨日もそんなこと言って結局……て、およ、青年? ジュディスちゃんにカロル少年と、リタっちにパティちゃんまで。凛々の明星勢揃いでどったの?」
 ようやく部屋の主以外にも気づいたらしい男――シュヴァーンの装備に身を包んだレイヴンは、パチパチと瞬きして一同を見回す。
「シュヴァーン、今日はお願いがあるんです」
 そんなレイヴンに向かって、玉座のヨーデルはにっこりと満面の笑みを浮かべてそう前置くと、後は穏やかな声音で単刀直入に告げた。
「彼ら《凛々の明星》と協力して《凛々の明星》を落として来てください」



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「……なーに、一人でぶつぶつ言ってんだ、おっさん。早く抜けよ」
 独白を聞き咎められたのは理解できるが、ごめんごめんと謝りながら後半部分に首を傾げた。
「抜くって何よ。つーか、何でそんな臨戦態勢なのよ、青年!」
「ん? なんだ、聞いて無いのか? フェロ……イフリートの提案でな。俺とおっさんで真剣勝負出来ることになったんだ」
「……はい?」
「いいからとっととやろうぜ。こっちは待ちくたびれてんだ」
 何が何だか分からない――するとそこに再びイフリートが現れて、意味不明なことを高らかに宣言した。
「人間よ――レイヴンと言ったか。この男と戦え」
「ちょっ…イフリートさん…? 一体何なのよ、藪から棒に」
「我が力を同調させるお前と、あの剣の力を継ぎし者との真剣勝負に興が引かれた。我の協力を欲するのなら、さぁ、戦うが良い!」
 レイヴンは思わず頭痛を感じて額を押さえた。
 何故こうも始祖の隷長だの精霊だのという存在はむちゃくちゃなのだろう。いや、これは精霊や人間というより性格か。
 とにかく、何とか宥めて穏便に済まそうと思ったレイヴンに、ユーリがこう言った。
「何だおっさん、真剣勝負って聞いてびびったか? 何なら手加減してやろうか?」
 安い挑発だと分かった上でも、ぴきりと自分の米神が引き攣るのが分かった。
 ユーリは年下で仲間だ。けれど、お互いの力を認めている同士だと思っている。――むず痒くて口にしたことなど無いが。それに同じ男としてそう言われれば引き下がることは出来ない。
「……後悔しても知らんよ」
 言いおいて、レイヴンはため息と共に武器を構えた。
 こうしないとどうしてもイフリートが力を貸してくれないから――そんな建前の元、けれど本当はレイヴンもユーリとの真剣勝負に心躍っているのかもしれない。
 伝説の銘剣を持ったユーリは、そのままキャナリの憧れた騎士のようだと思った……そのユーリに勝つことはレイヴンの目指したものに……キャナリが憧れたものに近づけるような気がして。
「――レイヴン様、推して参る!」
 道化のように言ったが、低い体勢から斜め上に繰り出した斬撃には本気の力とスピードを乗せて放つ。
 多少体勢は崩したものの、間一髪の所で真っ向からユーリに受け止められて、レイヴンは刹那目を瞠った後、口の端を引き上げた。