■If! novel■ 一部抜粋
イヴェールは嫌な予感がしてそろそろと隣のサヴァンを窺った。すると悪い予感は的中し、サヴァンは非常に上機嫌にキラキラと光らせた目を細め、恍惚の表情で聞き入っていた。
生と死――いかにもこの自称賢者が好みそうな悩みである。
「En effet……En effet! 生きるべきか死ぬべきか……いや、死ぬべきか死なざるべきか、まさに最大の問題だ!」
ドヤァッ…!と、全力のイイ顔で言い切ったサヴァンに、イヴェールは頭を抱えた。
興奮して鼻息まで荒くし、身を乗り出してエリーザベトの手を握る様子は、何処からどう見ても変態である。
「哀しみの朝と歓びの夜……君にとっては、そうなのだね? 先に旅立った焔(ヒカリ)を掴み取る覚悟があるなら――エリーザベト、君の心はもう決まってい……」
――からーん……パリンッ……
サヴァンの言葉を遮るように後ろから異なる二つの音が聞こえた。何気なく振り返ったイヴェールは、ぎょっと目を剥く。
そこには、少女の人形を抱えたやけに顔色の悪い男が立っていた。最初に聞こえたのは、その男が棒のようなものを取り落とした音。後のは人形の方が持っていたディスクが落ちて割れた音らしい。
「エ……」
「”え”?」
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「武術大会? くだらんな」
数日前、その話を持ち込んだアナトリアの王子オリオンに、アルカディアの王子であるエレフセウスはそう返した。ついでに、同大会前年度覇者であるオリオンを前に、あんなものは子ども騙しだの、目立ちたいやつが出る軽薄な大会だの、散々と馬鹿にしてくれた。
しかし大会当日である今日、エレフセウスはヤル気満々で出場者の群れの中にいた。その理由は……
「勝利の女神(ミーシャ)の接吻(キス)は誰にも渡さん!」
「歪みねぇな、オイ!」
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「――さぁっ! いろいろあった本大会もようやく決勝戦だ! 何? 第三グループと準決勝は何処行ったって? ちゃんとやっただろ。見てないと思った奴は、立ったまま寝てて見逃したんじゃないのか? なぁイド、言ってやれ!」
「TNGッ!」
ここに来るまでの紆余曲折で役立たずと思ったスタンドの使い方までも完璧にマスターしたオリオンは、大きな声で決勝戦の対戦者を告げた。
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