Tales of Vesperia本  「ホログラム」

B5 36P ¥500 111229発行

TOV、ユリエス+レイヴン本。
漫画と小説で一つのお話になってます。
おっさんと凜々の明星がヨーデル殿下に協力して貰ってじれったいユリエスをくっつけるお話。




内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


 これは、夢だ。
 ユーリにはそれが分かっていた。
 目の前には、『帝国騎士団隊長主席』だと名乗った見慣れた男が、見慣れない恰好で剣を構えている。
 仲間の静止の声も虚しく、なし崩しに男――レイヴンでは無くシュヴァーンと言った男との戦闘が始まる。
 それは、見知った男の戦い方では無かった。得物の種類さえも違う。髪型も、服装も、声も、魔術の詠唱も……何もかもが違う。本人の宣言通り、本当に別人だとでも言うように。
 技の応酬を繰り返し、ガチリと交わった剣が嫌な音を立てる。
 生気の無い……自分の意思さえも感じない濁った瞳と間近で視線が合い、ユーリは頭の中がカッと燃えるような感覚を覚えた。
 それが怒りだったのか、それとも『覚悟』した瞬間だったのか、分からない。
 力を入れて弾くように距離を取り、何合か打ち合った後に。
 不自然に大きく開いた正面に、ユーリは渾身の一撃を――振り下ろした。

「――ユーリ!」
 仲間たちが次々にユーリの名を呼び、ユーリははっと目の前を見つめた。
 そこには、手に残る生々しい感覚とは裏腹に、ユーリが斬った筈の男の姿は無かった。
 その、代わりに。
 地下の暗い神殿ではなく、生まれ育った帝都ザーフィアスの変わり果てた街が見渡せる御剣の階の上――
 濃くなりすぎて赤く視認出来るエアルの舞う中、対峙したのは隙のない型で剣と盾を構えた少女だった。
「エステル……」
 ユーリは呆然と呟いた。
 剣を持った手が震える。
 ユーリは何事かを、少女――エステルに向かって叫ぶ。
 しかし、その声は届かない。
 真っ直ぐな澄んだ翡翠の瞳は、感情が一切廃された人形のようだった。
「今……楽にしてやる」
 自分の口が発した言葉に凍り付く。
 そのままユーリは、操られて涙を流すエステルに剣を振り上げ――

「ユーリ!」
 乱暴に頬を張られた衝撃に、無理矢理意識が浮上する。
 目を開けて飛び起きたユーリは、剣を握っていない自分の手を見て呆然と呟いた。
「……は……夢……」
 そこは、バクティオン神殿でも、御剣の階でも無く、昨夜寝たベッドの中。
 半身を起こしたユーリは、ぐっしょりと汗をかき、肩で息をしていた。
「……珍しいな、お前さんが夢で魘されるなんて」
「おっさん……?」
 傍らを見上げれば、レイヴンが静かにこちらを見つめていた。その姿に、夢で見た騎士姿の男が重なる。
 ユーリは片手で目を覆ってため息をついた。
「おっさんが起こしてくれたのか」
「まぁね。ちょいと辛そうだったもんで」
「ああ……助かった」
 呟いて、ユーリはベッドから抜け出した。
「……真夜中のお散歩もいいけど、あんまり遅くならんようにねー」
 肩越しに振り返れば、レイヴンは既に隣のベッドに入って背を向けていた。
 お見通しらしい年長者に息をついて、ユーリはああと頷いた。
「悪いな……」
「いってらっさーい」
 力の抜けるふざけた声に送り出され、ユーリは頭を冷やすために外に向かって歩き出した。



「イテテ……まーだ二日酔いが抜けねぇよ」
「飲み過ぎですよ、ユーリ。私はちゃんと止めました」
 城の裏手にある芝生の上。遠くには帝都の街並みが見渡せるが、人の気配は無い、忘れられた一郭である。
 こんな普段は人の来ない場所ながら、ぼうぼうの草むらではなく手入れされた青い芝生だというのが、ここが城であるというのを如実に物語っているなとユーリはぼんやり思った。
「風が気持ちいいな……」
「そうですね……」
 思えば、エステルと二人でのんびりとした時間を過ごすのは随分久しぶりだった。そう気付けば自然と口角も上がってくる。
「はー、しっかし、今回はひどい目にあったぜ。……まあ、結果オーライだけどな」
 そう言って笑いかければエステルは頬を染めたが、すぐに真面目な顔になり、意外なことを口走った。
「ユーリ……ユーリは、本当にあれで良かったんです?」
「……どういうことだ?」
「私、ずっと考えてました。私と居ることで、ユーリがひどいことを言われたり、不快な思いをしたり……そういうのは、きっとこの先、ずっと続きます。そんな思いをユーリに本当にさせてもいいのかって。私の我が儘なんじゃないかって」
 真剣にそう言い募るエステルに、ユーリは思わず笑ってしまった。
「ユーリ?」
「悪い……俺もずっと考えてた」
「何を……です?」
「まあ、結構いろいろな。けど、天然陛下がエステル口説いて手握った瞬間に、全部吹っ飛んじまった」
 あの時、ユーリは何も考えてなどいなかった。ただ単に、ヨーデルの行為が許せなかっただけだ。つまり、あれこれ思い悩んでみたところで、ユーリはエステルの手を離せないということだった。
「離せないなら、この手で守るしかない――答えを出してみりゃ、随分と単純だったけどな」
「……教えて下さい」
「ん?」
「ユーリが考えてたいろいろなこと……ちゃんと、これからは私にも教えて下さい」
 自分の手じゃエステルを幸せに出来ないかもしれない……そんなことを言えば怒られるのは明白で、ユーリは一つ学習した。――相手に怒られるようなことを考えるのは、時間の無駄だ。
答えは出た。ならば、過去の汚れた手も、これからエステルを守る手も、全部死ぬまで抱えていく覚悟をすればいい。
「その内、な」
「ずるいです、ユーリ! 教えて下さいったら!」
「わっ、こら待て、エステル」