Tales of Vesperia本  「咎人に降る夢」

B5 52P ¥600 101229発行

ED後の世界で、おっさんが過去の罪と向き合いながら生きることを選び取る話。
小説と漫画で一つのお話になってます。
凜々の明星オールキャラと騎士団も絡んだ、シリアスですがおっさん幸せ本です。
遊び要素で称号ネタあり。




内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


 何が何やら分からないままのレイヴンが、副帝・騎士団長・天才魔導士という馴染みの面々に連行されて団長執務室に着くと、なぜか黒衣の青年が我が物顔でソファに寝そべり待っていた。
 飾りで盛ってあったであろうフルーツは、ユーリの掌中の囓りかけのリンゴ以外綺麗に消えてしまっている。
「遅かったじゃねーか、みんな。おっさんもご苦労さん」
「……ユーリ。僕は君と会う予定じゃなかったと思うんだが……」
 頭痛を持て余すように部屋の主であるフレンがため息をついて「それとも僕の勘違いかい?」と聞くと、「そうなんじゃねーの?」と悪びれない返事がかえる。
 相変わらずな二人だと苦笑したレイヴンだったが、不意に強烈な一打を後頭部に食らって床に倒れた。振り返れば、分厚い本を片手に持った鬼のような顔のリタと目が合う。
「ったーー! ちょっと何すんのよ、リタっち! 角は反則よ、角は!」
「うっさい! 暢気に笑ってる場合じゃないでしょ!」
「……そんなこと言われたって、おっさんにも分かるように説明してちょうだいよー」
 そこではたと我に返ったリタは、どうやらまだ説明さえしていなかったことも失念していたらしい。
 天才と言われるだけあって常に論理的なこの少女には珍しいことだとレイヴンが驚いていると、苦笑したエステルが言葉を継いだ。
「ごめんなさい、レイヴン。すごく大事なことだったので慌ててしまって。でも、リタもそれだけレイヴンのことが心配だったってことですから、怒らないでくださいね」
「ちょっ…何言ってんのよ、エステル! ああ…あたしは別にっ………さっさと本題に入りなさいよねっ!」
 赤くなってどもったリタが半ば怒鳴りつけるように叫ぶと、にっこりと笑ったエステルがはい、と頷いた。
「実は、アレクセイの隠し部屋が見つかったんです」
 思ってもいなかった名前と言葉が飛び出して、レイヴンは大きく目を瞠った。
 リタがエアルを使う魔導器の代わりに、マナを使った新しい仕組みを研究しているのはレイヴンも知っていた。そのついでという名目で、レイヴンの心臓魔導器(カディス・ブラスティア)を調べてくれていることも。
「もう一歩なのよ。アレクセイが使っていた計器の正確な初期数値が分かれば、今よりもっと安定させることが可能な筈なの」
 そう言って、一週間ほど前からアレクセイの残した資料を隈無く調べる為に、ここザーフィアス城に詰めていたらしい。
 しかし目ぼしいものは見つからず、その努力もほとんどが徒労に終わろうとしていたところ、今日になってこの騎士団長執務室の壁面に隠し部屋が発見された。隠し部屋と言っても周囲のスペースを考えるに、せいぜいが書棚二〜三個分の広さだろうが、極秘の資料を収納するにはうってつけである。
 リタの研究用としてだけでは無く、騎士団や帝国としても俄然重要度が上がり、すぐさま熟練の鍵師や帝国の魔導士たちも呼ばれたが、厳重に施された鍵はどうやっても開かなかった。
 恐らく、アレクセイ本人にしか開けられないように細心のセキュリティを施していたのだろう。もし、他に開けられる人間が居るとすればそれは――
「……そんで、おっさんに白羽の矢が立ったってわけ?」
「アレクセイが心から信用していた人間となると、そうは居ないので……」
 ここまで強引に連れて来たことを今になって悔やんでいるのか、申し訳なさそうに眉尻を下げたフレンに、レイヴンもため息をついた。
 その場に居合わせたリタと、リタを手伝っていたエステル、果ては居場所を尋ねた元シュヴァーン隊の面子まで加わって、休憩中だったレイヴンの大捜索が行われていた……らしい。
「で、おっさん! 鍵はどこにあんの!? 出して! 痛い思いしたくなきゃ今すぐ出しなさい!!」
「ちょっ、待ってよ、リタっち! そんなのおっさんも知らないって!」
「……何ですって?」
 襟元を掴まれてガクガクと揺さぶられ、肌けた胸元を隠して言えば、リタは眉を吊り上げ、エステルも真剣に詰め寄ってきた。
「それは本当ですか、レイヴン!」
「え? うん、本当だけど……」
「……探すわよ!」
「そうですね、探しましょう! ね、レイヴン!」
「レイヴンさんも、この探索を最優先してください」
「――へ?」
 アレクセイの隠し部屋の鍵探索――抜群のチームワークであっという間にそれを決めてしまった仲間達に、レイヴンは半ば呆気に取られた。
 騎士団長であるフレンが口にした時点で、レイヴンには拒否権が無くなっている。
「い…いやいや、ちょっと待って。探すったって、手がかりも何も無いんじゃ……」
「手がかりならありますよ」
「本当ですか、フレン!」
 嬉しそうに振り返ったエステルに、フレンは白い歯をキラリと光らせてええと頷いた。
「アレクセイには生前、信用はしていなくとも、仕事上親しく交わっていた研究者や術者がいました。当然、その筋にはアレクセイの遺したものは例え紙切れ一枚でも無いかと既に確認済みなのですが……」
「んじゃあ……」
「けれど、まだ一つだけ調べていない場所が」
 歯切れ悪く言葉を途切らせるフレンだったが、その視線の先にとある船の模型を見つけて、レイヴンははっと息を呑んだ。
「まさか……」
 その模型自体は新しく新造中の騎士団の軍船だったが、船とアレクセイと聞いて連想されるのは一つの悲惨な事件である。
「……そうです。あの船には、アレクセイの息のかかった研究者も同乗していたことが分かっています。その人物に預けていたとすれば……」
「あの墓が無人だって話がホントなら、今もまだ海の底ってわけだわな……」
 そこでようやく何を指しているのか分かったエステルとリタも小さく息を詰めた。
「――ブラック・ホープ号」
「でもあの船は……」
 リタの言いたいことも分かる。
 ブラック・ホープ号は海(セイ)精(レーン)の牙(キバ)によって船員を皆殺しの上に沈められたと言われているが、その場所までは特定されておらず、いまだに船体自体発見されていない。
 この広い海の中からその謎の沈没船を探すことは不可能に思われる……が。
「いるだろ、一人。沈んでる海域をはっきりきっぱり教えてくれそうな仲間が」
 よっこらせと身を起こしたユーリの言葉に、リタとエステルははっとして顔を見合わせた。