Sound Horizon [moira]本  「APOLLO」

B5 36P ¥500 100926発行

幸せmoiraエレミシャ本。

漫画と小説で、ツンデレフ×ミーシャを目指した一冊です。
漫画はミーシャ視点、小説はエレフ視点が多め。オリオンとレオンもほのぼの絡んでます。




内容紹介



■APOLLO comic■ 
一部抜粋





■APOLLO novel■ 一部抜粋





「エレフ、ほら一緒よ」
 その言葉にはっとして顔を上げれば、アルテミシアが可憐に笑って食後のパイを差し出していた。
「何ぼけっとしてんだ、兄弟。折角ミーシャが手料理振る舞ってくれてるってのに」
 隣に座ったオリオンもそう言って、次々と料理を平らげている。
「誰が兄弟だ」
 とりあえずオリオンの頭を軽く叩き、エレフセウスは手に持った葡萄酒を飲み干した。
 雷神眷属の国アルカディア、雷神殿ブロンディシオン――
 その居住区の庭の一角に位置する東屋である。
 双子のアルテミシアと幼馴染みのオリオンと三人でこうして食事を取るのは別段珍しいことではない。
 エレフセウスは昔から積極的な性格では無かったが、代わりにアルテミシアとオリオンが二人してぐいぐいと引っ張り回し、三人で行動するのが常だった。その図式は成長してからも全く変わらないのだが。
「エレフったら、オリオンが可哀想よ」
 双子の片割れがオリオンの方を庇えば、やはり面白くは無い。
 しかしエレフセウスは無言を返し、やや不機嫌になったことを悟られないように黙々と食事を開始する。
 顔を見合わせたアルテミシアとオリオンが同時にため息をついた。
「全く……相変わらずだなぁ、お前も」
「本当。エレフらしいけど」
 くすくすと笑い合う二人の声も何となく不快で、エレフセウスは席を立った。
「エレフ、どこ行くの? まだパイが残ってるわ」
「……そんな甘いもの、食べれるか」
「そんなことないわ。前にエレフがたくさん食べてたものと一緒よ?」
 一緒――先ほどの言葉に戻り、エレフセウスは動揺を隠して視線を反らせた。
「いらないものはいらない」
「エレフ!」
 呼び止める二人の声を無視して、エレフセウスは足早にその場を離れた。
 しばらく庭をひた進み、神殿の裏側に出てようやく足を止める。
 いつも一人になりたい時に訪れる場所だった。
 小高い丘から街とその先に広がる荒野、海まで見晴らせて、それらの対比で空が美しく映える。
 しかし、今日はそれらの景観を楽しむ気分では無い。
 エレフセウスは崖際に立つ崩れかけた塀の上に腰を下ろし、渋面を作った。
 いつ頃からだったか、エレフセウスはアルテミシアに対して昔の頃のように優しく接することは無くなった。
 オリオンからは素直じゃないと呆れられ、兄のレオンティウスからは怒られ、スコルピオスからは反抗期かと嘲られた。
 それらも間違いではないのかもしれないが、根本は別にある。
 ――「エレフ、一緒よ」
 記憶の中にいつもたゆたう愛しい声。
「…………」
 エレフセウスはため息をつくとガシガシと自分の頭をかき乱し、物思いを振り払うかのように歩き出した。

 

 土煙が舞って、炎が踊り、赤が翻る。
 饐えた血の臭いの中で、闇を纏った異形が死者を誘う。
「――散るな! 敵の思う壺だぞ!」
 血に酔ったように上滑りする意識を叱咤して、エレフセウスはそう叫んだ。
 これは夢に出てくる戦場では無く、本物の殺戮の場だ――
 自分自身に言い聞かせて、隙を作らないよう周囲に気を配る。
 思ったより敵の数が多かったこともあり、二人の側近とも大分遠くまで離されてしまっていた。
「……チィッ!」
 思うように行かない苛立ちに、思わず舌打ちが漏れた。
 この戦いに身を投じてから……アルカディアを出てからもうどれだけ経っただろうか。
 国境を接していない敵国との決着を付ける為、エレフセウスは将軍としてアルカディア軍を率い、遠征に来ていた。
 しかし敵軍の規模は予め想定していたよりもかなり大きく、予定の日数を過ぎているにも関わらずまだ敵本隊まで到達していない。
 自分でも焦りは禁物だということは分かっていた。けれど、一刻も早く帰りたいという想いが拍車を掛け、徐々に焦燥が高まってきている。
 長期に渡る遠征で感覚が麻痺してきているのかもしれないが、もう何年も双子の片割れに会っていないような気がしていた。
「……ミーシャ……」
 たったいま命を奪った屍の傍らで呟いて、黒い双剣に付いた血を払った。
 こんな無骨な黒や禍々しい赤とは無縁の存在である双子の妹。
 近くに寄られるとどうして良いか分からなくなるが、いなければそれ以上に不安でしかたない。
 妹の身に実質的な危険は降りかからないと分かりきっていたが、それでも不安なのだ。
 これはもう理屈では無い。
 自身の防衛本能と同じ、もっと根源の感情である。
「――クソっ! 退け、一気に片を付ける!」