Tales of Vesperia本  「Twinkle」

B5 48P ¥600 100606発行

レイヴン中心、虚/空の仮面(上)ネタバレ本。

漫画と小説それぞれ別の中編です。
いずれも帝都を歩いていたところに、故郷時代のレイヴンを知る人物に呼び止められて……というお話。
レイヴン・シュヴァーン・故郷時代のダミュロンと、おっさんだらけの本です。




内容紹介



■comic■ 一部抜粋




■novel■ 一部抜粋


 世界を覆っていた災厄が滅ぼされ、人々の生活から魔導器という文明が消えてから数カ月。
 生活を支えていた魔導器の無力化や、そもそも人間の生活自体を守っていた結界の消失は、世界中に多大な混乱をもたらした。しかし人は逞しい――世界が変容したあの日から今日に至るまで、既に新しい習慣、体制、仕組が根付き始めている。
 以前とはまた少し違った平和な日常が新しい世界に浸透していた。作家志望である姫君に言わせれば、それは『進化』『変革』『発展』ということになるらしい。
「でもさ、レイヴンは相変わらず問題抱えてるよね」
「全くだ。厄介事がネギ背負ってやってくる気分はどうだ、おっさん」
 麗らかな陽気の街並みに、それにしても平和って素晴らしいわよねーなどと和んだ発言に対する連れ二名の返答がそれだった。現実逃避さえさせてくれない手厳しい年下の仲間たちに彼――レイヴンは溜息をつく。
「ちょっと君たち。問題山積みでへとへとのおっさんに、もうちょっと優しくしてくれてもいいんでない?」
「だったら大人しくウチに骨埋めろよ」
「そうそう、僕たちずっと待ってるんだから」
「あ〜まあ、その内ねー」
 ある意味いつも通りのやり取りを軽く流して、他に二つの組織を掛け持つ彼は白々しく大きく伸びをした。
「はあ、良いお天気だわー」
 帝都ザーフィアスの下町から市民街を抜け、やがては貴族街・城へと至る大きな坂道の途中。正午をやや過ぎた大通りでは商店や行き交う人で賑わい、からりと晴れた青空を映すように明るい活気に満ちている。
 帝都に着いてすぐ、手軽な昼食とちょっとした情報を求めて下町の馴染みの酒場に顔を出したレイヴンは、そこで彼ら――ユーリとカロルに出くわした。他の仲間も含めて定期的には会っているし、仕事でも顔を合わすが、今回は全くの偶然である。
 レイヴンは騎士団の仕事にせよギルドの仕事にせよ、普段はトルビキア大陸を拠点としている。当然の流れで帝都に来た理由を聞かれ、別段隠すことでも無いので食事をしながら、道すがらに、つらつらと事情を説明した所だった。
「しっかし今時怪盗とはねぇ……ま、このご時世だからこそか」
 ユーリの言葉に、レイヴンも溜息をついて羽織の袂から一枚のカードを取り出した。それを手元でくるくると回して弄びながら、ダングレストに置いて来た天を射る矢(アルトスク)の面々を思い浮かべる。
 そのカードこそ、まさにその盗賊から天を射る矢に宛てられた予告状だった。
『今夜、ドン・ホワイトホースが遺せし愛刀を頂戴する 漆黒の翼』
 今時律儀に予告状などというものを出す方も出す方なら、予告された通りにまんまと盗まれる方も方である。
 仕事で留守にしていたレイヴンが戻った時には事は全て終わっており、ドンの遺品であるユニオン首領室に飾られていた大剣はきれいさっぱり姿を消していた。持ち主たる現首領ハリーの落胆は激しく、また鬱々と自分のせいだなどと落ち込む始末。
 頭がこれではマズイと見兼ねたレイヴンは、一連の顛末に何か引っかかりを覚えたのもあり、騎士団と共同捜査して剣を取り戻すべく帝都にやってきたのだった。
「けどいいのかよ、おっさん。騎士団ではシュヴァーンとは別に、その恰好で覆面監査もやってんだろ?」
 ユーリがそう言ったのは、坂を登り切る頃……城の壮麗な門が見えて来た頃である。騎士団から情報を得る為にもとにかく団長であるフレンに会わなければ話にならない。ユーリとカロルも以前受けた仕事の報告に行くところだと言うので同道したのだが、どうも『レイヴン』が正面から城を訪れることに違和感があるらしかった。
 失礼な話だが、言われると改めて違う問題点に気が付く。
「あー、まあそれはいいんだけど……そうねー……」
 確かに騎士団での実務である内部監査・内偵をする時は面が割れていないレイヴンの恰好で行うことが多いので、城に出入りしているのを見られるのは余り歓迎できないが、毎日城には多くの人間が訪れる。レイヴン一人ならば陳情に来た町人としてさほど目立たないと思っていたけれど……。
 レイヴンは顎に手を当てしげしげとユーリとカロルを眺めた。
 あの一件以来、彼ら凛々の明星は一躍有名になった。特にユーリは皇帝ヨーデルから『聖騎士』としての称号も受けており、本人の無頓着さに関わらずかなり目立つ存在だ。そんなのと派手な出で立ちのレイヴンが一緒にいれば、流石に目を引いてしまうだろう。
 うーんと少し考えたレイヴンは、人ごみに紛れて手早く目立つ色の羽織を脱いで鞄に仕舞い込み、ぼさぼさに結い上げた髪を解いて下の方で小さく纏め直した。
「これでどうよ?」
「……レイヴンって本当に髪型で印象変わるよね」
「やーね、少年の可愛い変装には負けるわよー」
「あれはユーリたちが無理やりっ……!」
「そうか? カロルかなり気に入ってたじゃねーか」
 赤くなって噛みついてくるカロルをユーリと共にからかっていると城門が近くなって来る。
 ともあれ、これでパッと見には凛々の明星の一員程度にしか見えないだろう――そうレイヴンがほっとした刹那、その油断は思ってもみない方面から破られた。
「ダミュロン坊ちゃま!?」