Sound Horizon [Moira]本  「白き朔 黒き望月」

A5 100P ¥ 1000 091230発行

Moira行間(勝手に)補完本。
前篇「白き朔」と後篇「黒き望月」の改訂版に書き下ろしを加えて収録した再録本です。

moiraストーリーを、自分たちなりの解釈で掘り下げてみました。




内容紹介




--Prologue-- 未央小説(書き下ろし)
冥府、ロシア夫妻

T「有明月」 未央小説
双子&両親・双子&スコルピオス (「運命」「市場」「イーリオン」)

U「弓張月」 コロン漫画
双子&オリオン (「イーリオン」後)

V「夕月夜」 未央小説
ミーシャ&ソアィア・ミーシャ&レオン (「聖なる」「雷神域」)

W「十六夜」 コロン漫画
エレフ&オリオン (「遥か〜」後)

X「朧月」 コロン漫画
レオン・アレクサンドラ・カストル (物語)

--Interval-- 未央小説(書き下ろし)
黒エレフ

Y「二夜月」 未央小説
双子&オリオン&スコルピオス (物語・水月 周辺)

Z「雨夜月」 コロン漫画
エレフ&オリオン&奴隷部隊 (奴隷)

[「晦月」 未央小説
奴隷部隊&アルカディア ...狼獅子蠍弓二柱 (奴隷・英雄・光)

--Epilogue-- 未央小説(書き下ろし)
黒エレフ・冥府・ミラ





■コロン漫画パート■ 
一部抜粋






■未央小説パート(書き下ろし部分)■ 一部抜粋






 古代のロマンに魅せられたのは、いつ頃からだったのか。

 残酷な運命は何を望んだのか……そこに抗う意味はあるのか。
 貧しさの中で死んでいった両親や妹の生に意味はあったのか――
 神話となった古代の出来事を解き明かせば、それらが分かるかもしれない。ここに記された神話の真相を知りたいと心が熱くなった。
 だから。

「……貴方、あーなーた! こんな所でお休みになったら、風邪を引いてしまいますわ」
「……エイレーネ?」

 だからこそ、そこに穴が――真実へと続く手がかりがある限り、彼は掘り続けるだろう。愛しいこの生たちと共にいられる今を大切に噛みしめて。

「おぉ、エイレーネ。今の内からこの子たちにもこれを読み聞かせてみてはどうかな?」
「そうですわね。あなたの子だから、きっと喜びますわ」
「私と君の子等――だからね」

 二人で幸福に微笑み合って、触りなれた頁をぱらりとめくる。
 今再び、神話の世界へと想いを馳せて――






 ――『冥府ヘヨゥコソ!』――

 暗い昏い闇の中を落ちていく――いや、自らの意思で降りていく。
 その先で見慣れた黒い影の集団に出迎えられ、彼は歩を進めてその門を潜った。


「おぬしには、冥府の眷族が見えるのか」

「お師匠も人が悪い。こうなることを知っていたなら、はっきり教えてくれれば良いものを」
 向かい合った紫水晶の前で、彼はそう呟いて笑った。






 ――パタリ
 古びた叙事詩が閉じられ、彼らは――冥王は、その死を宿す瞳をゆるりと持ち上げる。
 ――神は生きているのか、死んだのか――

 ――「私はお前たちの兄だ――エレフセウス」
 その言葉が、どれだけの衝撃を彼に与えたか……いや、言った本人も充分に分かっていただろう。

 運命の女神の糸と、冥府の影とに、雁字搦めに捕らえられる音を聞いたと思った。
 実際にはそれは自らの絶望の咆哮だったのだが、彼の意識はその場にぷつりと切れ崩れ落ちた。そのまま深い闇の底に落ちていけた方が、いっそ幸せだったかもしれない。

「……閣下、お目覚めでしたか」
「お体の調子はいかがですか?」

 彼はそのまま廃墟となったイーリオンを見つめていた。
 かつて奴隷として虐げられ、オリオンと出会い、アルテミシアと再会した町……生きとし生けるもの全てが息絶えたようなこの廃墟。
 彼が――エレフセウスが戦いに戦い抜いてまで求めたものは、一体何だったのだろうか。

「シリウス、オルフ、後のことは全てお前達に任せる。私は……俺は、行くところが出来た」
「……どちらに?」
「冥府へ――」


 完全に一人になってからしばらくして、彼は腰の剣に手を掛けた。
 髪の一部分だけを編みこんだ自らのそれを逆の手に取り、剣で根元からざっくりと切り取る。
 はらりと解けた残りの髪が雨に流されて、エレフセウスの表情を隠した。

「仇は取ったよ、ミーシャ……」


 ――息仔ョ……

「お前は……俺か」

 闇が深まるほどに、自分の体が侵食されていくのを感じていた。やがて妹と揃いだった明るい髪も闇色に染まった頃、彼の足は最深部の地底を踏む。

 ――『冥府ヘヨゥコソ!』――

 光と闇、天と地、生と死、双ツハヒトツ――正反対でありながら同じもの。
 ――それが彼ら……運命の双子。


「それでも、お征キナサイ仔等ョ――」