Sound Horizon [Moira]本  「ハルモニア」

A5変型横版 28P ¥300 091101発行

相方コロンの2010年カレンダー絵6種を題材にした、未央小説を詰め合わせの短編集。
コピー本ならではな装丁を……と考えて、珍しい横版にしてみました。
本文は未央個人誌となります。




内容紹介



<ハルモニア目次>

「雪の妖精」……エレフミーシャ+レオン (幸せミラ)
「桜の陽だまり」……幼馴染子ども時代/エレ・ミシャ・オリ (幸せミラ)
「慈雨の涙」……奴隷部隊/シリウス&オルフ +アメ
「青天の誓い」……ブサイクちゃん'S海賊時代/エレフ&オリオン
「月蝕れる日」……お兄ちゃん'S少年時代/レオン&スコピ
「冥の仮面」……冥府/タナトス&ミュー・フィー等









■雪の妖精■ 一部抜粋





 ひんやりとした空気が肌をさし、アルテミシアはまどろみの中から不意に目を覚ました。

 寒いと思うよりも好奇心が勝ったアルテミシアが窓布を外して外へ手を差し伸べると、何か冷たいものが掌に落ちた。

「雨……じゃない…?」

「ミーシャ! 雪だっ!」

「アルカディアで見たのは子どもの頃以来だって、庭師の爺さんが言ってたよ」

「これが雪なのね……ね、エレフ、もっと良く見える所に行きましょうよ!」

 滅多に見られないものと分かると余計に好奇心が煽られて、アルテミシアは双子の手を引っ張って部屋を出、一番広いバルコニーへと突進した。

「うわっ、ミ…ミーシャ!」
「ほら、見てエレフ!」

 ふわりふわりと落ちてくる白い結晶の中を、くるくる回って戯れる。夜明けの光に白が映えてとても美しく、アルテミシアの心を高揚させた。
 調子に乗ってエレフセウスの手を握ってダンスを踊っているように回転すれば、心配性な片割れもふっと苦笑を漏らした。

「しょうが無いな、ミーシャは。巫女様だなんて言っても、昔からのお転婆姫のままだ」
「まぁ、年頃の女の子に向かってヒドイわ、エレフ」



「はは、元気だな。だが、そんな薄着で遊んでいたら風邪を引くぞ、二人とも」
「レオン兄様!?」
「レオン兄上!?」

 振り向いた先には背の高い兄レオンティウスが苦笑しながら立っていて、思わず二人は同時に叫んでしまった。

「風邪なんか……っくしゅ!」

 言った先からくしゃみをしてしまったエレフセウスにますます笑って、レオンティウスは自分が着ていたマントを脱いで弟の肩に掛ける。


「二人とも、風邪なんか引かずに待っていてくれよ」
「でも、それじゃ兄上が……!」
「私はこんなものを着ているから平気だ。それにいざとなったらカストルのマントでも貰うさ」

 まだ不満そうにしているエレフセウスの額も軽く小突いて、レオンティウスは悪戯っぽい笑みを残して足早に表に向かって歩いて行った。

 アルテミシアはそっと苦笑して片割れの手を取る。

「ほら、見て。私たちが温かいから、雪もすぐに溶けちゃうわ」

 二人で子どものように寄り添い合い、布に包まっていつまでも白い雪を眺めていた。
 雪なのに暖かい、冬の日の思い出――













■青天の誓い■ 一部抜粋






「弓がしなり弾けた炎、夜空を凍ら……」
「だから長ぇって言ってんだろ!」

 まだ構えの途中で弓を弾き飛ばされ、反射でひっくり返ったオリオンは仕合っていた相手を思い切り罵倒した。

「ひでぇじゃねーか、エレフ! まだ技名の途中だぞ!」
「何が途中だ馬鹿。長いって何回言えば分かるんだ馬鹿」
「バカバカ言い過ぎだコノヤロー! 少しは相手の技に敬意ってもんを……」
「はっ、そんなもんを一々払ってたら冥府にまで借金背負ってくことになるぜ?」

 冥王にでも借りるか?などと素晴らしい毒舌を披露する相手は、オリオンと同じ年頃の少年――エレフセウスである。

 イーリオンで奴隷として働かされていた頃からの友人だが、最初はすぐ泣くしひ弱だし人見知りはするしと、欠片も擦れていなくて、今よりもっとずっと可愛かった……それなのに。

「死ぬか、不細工ちゃん」

 はっと顔を上げれば、そのエレフセウスが青筋を張り付かせて木刀を向けてきていた。





 青い空、青い海、一面の青に囲まれたここは大海原の真っ只中――外海を航海中の帆船である。乗組員の誰にも言葉は通じない。

「……ミーシャは今頃、朝食でも食ったかな」

「……お前さ、ミーシャが無事でいるってホントなのかよ」

 双子の繋がりだか何だか知らないが、難破船から助かった後しばらくは行方不明になった妹を心配して取り乱していたエレフセウスは、ある日を境に「もう大丈夫だ」と言って片割れの無事を確信しているようだった。

「ミーシャはこの海の何処かで生きてる」

 確信に満ちた瞳。睨み合うこと数秒でオリオンは早々に白旗を上げた。

「……分ーかった! そんじゃ、ま、サクッと強くなってチャチャッとミーシャ探しに行こうぜ!」

「こんな時代だ。俺もお前もこれからどうなるかなんて分かんないけど、約束してやる。どんな事になったって、どんな時だって、このオリオン様だけは泣き虫エレフの味方でいてやるってな!」

 エレフセウスはきょとんと瞬きして、やがて顔を歪めて笑った。

「……ああ。頼りにしてるさ、親友」
「おぉ、任せとけよ相棒!」