■雪の妖精■ 一部抜粋
ひんやりとした空気が肌をさし、アルテミシアはまどろみの中から不意に目を覚ました。
寒いと思うよりも好奇心が勝ったアルテミシアが窓布を外して外へ手を差し伸べると、何か冷たいものが掌に落ちた。
「雨……じゃない…?」
「ミーシャ! 雪だっ!」
「アルカディアで見たのは子どもの頃以来だって、庭師の爺さんが言ってたよ」
「これが雪なのね……ね、エレフ、もっと良く見える所に行きましょうよ!」
滅多に見られないものと分かると余計に好奇心が煽られて、アルテミシアは双子の手を引っ張って部屋を出、一番広いバルコニーへと突進した。
「うわっ、ミ…ミーシャ!」
「ほら、見てエレフ!」
ふわりふわりと落ちてくる白い結晶の中を、くるくる回って戯れる。夜明けの光に白が映えてとても美しく、アルテミシアの心を高揚させた。
調子に乗ってエレフセウスの手を握ってダンスを踊っているように回転すれば、心配性な片割れもふっと苦笑を漏らした。
「しょうが無いな、ミーシャは。巫女様だなんて言っても、昔からのお転婆姫のままだ」
「まぁ、年頃の女の子に向かってヒドイわ、エレフ」
「はは、元気だな。だが、そんな薄着で遊んでいたら風邪を引くぞ、二人とも」
「レオン兄様!?」
「レオン兄上!?」
振り向いた先には背の高い兄レオンティウスが苦笑しながら立っていて、思わず二人は同時に叫んでしまった。
「風邪なんか……っくしゅ!」
言った先からくしゃみをしてしまったエレフセウスにますます笑って、レオンティウスは自分が着ていたマントを脱いで弟の肩に掛ける。
「二人とも、風邪なんか引かずに待っていてくれよ」
「でも、それじゃ兄上が……!」
「私はこんなものを着ているから平気だ。それにいざとなったらカストルのマントでも貰うさ」
まだ不満そうにしているエレフセウスの額も軽く小突いて、レオンティウスは悪戯っぽい笑みを残して足早に表に向かって歩いて行った。
アルテミシアはそっと苦笑して片割れの手を取る。
「ほら、見て。私たちが温かいから、雪もすぐに溶けちゃうわ」
二人で子どものように寄り添い合い、布に包まっていつまでも白い雪を眺めていた。
雪なのに暖かい、冬の日の思い出――
|