Sound Horizon [Moira]本  「天つ星」

B5 36P ¥500 090823発行

幸せMoiraでレオン×ミーシャ本。

漫画⇒小説でお話が続いています。
双子もオリオンも捨てられずに王族として育った幸せ設定です。
兄妹という禁忌概念はありません。天然王子と夢見る妹姫とのほのぼのラブストーリー。
狼、弓、蠍、北狄も登場。
ほんのりエレミシャ、スコミシャ要素があります。




内容紹介



■天つ星 comic■ 
一部抜粋





■天つ星 novel■ 一部抜粋







 天上に輝く数多の星屑の煌めき。
しかし唯一つ、時と共に移ろう星々の中でも変わらない焔(ひかり)がある。

「レオン兄さまー、天つ星のお話して?」

無邪気な稚い声は、随分と昔のもの。

「またかい? 本当にミーシャはあの星が好きだね」

「うん! だって……だってね、あのお星さまは………」

言い淀んで幼い胸の中に消えた言葉は何だったのか、今となっては誰も知る由もなく。
ただ満天の星に抱かれて、変わらぬ焔に惹かれるだけ――




「おはよう、エレフ」
「おはよう、ミーシャ」
コツンと額を合わせて、最愛の片割れと朝の挨拶。毎朝の日課となっている光景である。

「木登りが得意なお転婆姫ならここにいるけどな」
「もう! 昔の話でしょう!?」

「ごめん、悪かったよミーシャ。だから機嫌直していつもみたいに笑ってくれ」
「もう……しょうがないエレフね」




「実は今度、レオンティウスが妃を娶ることになった」
「え――?」

王族とは即ち、神の血を受け継ぐ一族。民を守るためにも、その血統をより良い状態で繋いでいくのが、第一の責務である。

「――おめでとうございます、レオンティウス兄上」
「あ……お…おめでとうございます」
エレフセウスの言葉に我に返ったアルテミシアは、何とか祝いの言葉を口にした。





「……ごめんなさい、スコル兄様。今日は晩餐までここに居てもいい?」
「………レオンティウスの縁談、か?」
「っ!!」

「このまま妹として、祝福なぞしてやるつもりか?」
もはや何も言えず、アルテミシアは無言でそれ以上言わないでというようにスコルピオスの腕に抱きついて赤い顔を隠した。

「――兄上、少しよろしいでしょうか?」
突然回廊の先から聞こえた声に、アルテミシアは驚いて顔を上げた。





「……おかしい」
「天変地異の前触れか?」
「オイって! お前言うに事欠いてそれかよっ!」
騒がしくがなりたて、あまつバシリと頭まで叩いてきた相手を、エレフセウスは思い切り睨み付けた。
「そもそもお前が悪いんだ、オリオン!」
「なんでだよ! 結局最後は俺のせいかよ!」

「レオン兄上に縁談が来た」
「え?」

「ミーシャの様子がおかしかったんだよ。今朝この話を父上から教えられた時な」
「はぁ…だからお前おかしいおかしいってブツブツ言ってたんだな?」

「考えてもみろ、オリオン………ミーシャとレオン兄上だぞ?」

「そんなこと言ったって、俺たちがいくら気を揉んだって仕方ねぇよ! なるようになるさ! 俺たちは可愛いミーシャが幸せになってくれればそれでいいんだから。――そうだろ、兄弟?」
「――ああ、そうだな馬鹿弟」
「俺が弟かよ!」
「当然だろ」

――ミラよ、アルテミシアに幸福を……ついでに、あれでいて人一倍不器用な困った兄にも。




「人は何を育むべきで、何を遺すべきものなのだろうな?」
「――頭でも打ったか、レオンティウス」
真面目に聞いた質問に対する、アマゾン女王アレクサンドラの返答は斯くも冷たいものだった。

「何が言いたい、レオンティウス」
「今度妃を娶ることになった」

「……レオンティウス、こうして居るのも何かの縁。一つだけ余計なことを言っておこう」
珍しく歯切れの悪い言葉にレオンティウスが首を傾げると、アレクサンドラは僅かに渋面のままで言った。
「意に染まぬ婚姻ならば、やめておいた方が良いぞ」
「どうせ、他に娶りたい娘でも居るのだろう」
「めっ…娶りたいなどと、ただっ……」

「すまないな、貴殿のものになれなくて」
「全くだ。どいつもこいつも見る目の無い。まぁ、いずれお前の首は戦場で手に入れてみせよう」





「アルテミシアを振り回して、それほど楽しいか?」

「兄妹同士での婚姻など、珍しくも何ともなかろう。その上、あれは貴様と同じく直系の血を受け継いでいる」
「兄上は、ミーシャをそのように思っていたというのですか!?」

「妹の為と言えど、話にならんな」




婚約者の姫君でも、他の誰でも無い……アルテミシアに傍に居て欲しい――。
ついこの間まで赤く染まっていた不浄の手で、大切な存在に触れる……それは矛盾しているようで、とても理に適った感情のようにも思えた。

「……我等は何と戦うべきで、何を守るべきなのだろうな?」
「兄様は、運命を勝ち取る為に戦っているのだと……そう、私は思っていました」
「運命を……ミラを勝ち取る為……」

真摯な瞳が正面から交錯し、アルテミシアはふわりと笑った。
「この想いだけ……誰かの心にこの想いだけ遺せれば、それで幸せです」




時と共に移ろう星々の中で変わらない、唯一つの星――愛しい人と永久の想いを誓う不変の星。
いつでも傍で瞬いてくれる何よりも愛しく尊い焔(ひかり)――