Sound Horizon [Moira]本  「黒き望月

B5 56P ¥700 090506発行

Moira行間(勝手に)補完本。

「死せる者たちの物語」〜「神の光」付近のストーリーを、
自分たちなりの解釈で掘り下げてみました。
冬発行の前編と対になる後編ですが、それぞれ単独でも問題ありません。



内容紹介




X「朧月」 コロン漫画/レオン・アレクサンドラ・カストル
(物語)

Y「二夜月」 未央小説/双子&オリオン&スコルピオス
(物語・水月 周辺)

Z「雨夜月」 コロン漫画/エレフ&オリオン&奴隷部隊
(奴隷)

[「晦月」 未央小説/奴隷部隊&アルカディア ...狼獅子蠍弓二柱
(奴隷・英雄・光)






■朧月・雨夜月■ 
一部抜粋






■晦月■ 一部抜粋




 
 陽の光も届かない冥い闇の中――
 天には神々が君臨し、地には生者が蔓延った。そして更に垂直に堕ちた先に、其処は存在していた。

「死ハ何故ニ生マレタノカ 我ハ何故ニ殺メ続ケルノカ」
 存在と同時に抱き始めた疑問――何度も口にしたそれを、冥王はなぞるように詩のように紡ぐ。
「母上、貴柱ガ命ヲ運ビ続ケルノナラバ、我ハ……」
 生を運ぶ運命の女神と死に誘う冥王。

 運命の歯車は廻り続け、女神の手によってその白き糸は紡がれ続ける。





「これはこれは……高名なるアナトリアの勇者にお会い出来て光栄だ。私はアルカディアのスコルピオス。お見知りおきを――オリオン王子」

 獲物を追い詰めるような眼をして話すスコルピオスにオリオンが警戒の色を濃くした刹那、蠍はじわりとその毒針を掲げた。
「――ミーシャ」

「お前がっ…お前がミーシャを……っ!!」

「如何にも。私が手に掛けたのだ――実の娘を殺せと言うアルカディア王の命で、実の妹をこの手でな」

「弓がしなり弾けた炎、夜空を凍らせて…射ち――」
 
――かつて三人で交わした無邪気な笑い声が……遠くなっていく。

「今度はアンタの番さ……運命なんざ、糞食らえ……だ」





――レスボスの聖女アルテミシア ここに眠る――
「アルテ…ミシア――?」

 パタパタと冷たい墓石に涙が落ちた。

 ――「私は、レオン様にはそのままで居て欲しいです」
 柔らかく笑った顔が鮮明に蘇り、レオンティウスは唐突にアルテミシアは死んだのだと――もう二度と会えないのだということを思い知った。

「私が……私が、ミーシャを……っ!」

「残酷な運命の女神……されど、私は戦おう。君の分まで戦う――我が妹、アルテミシア」


「ふはははは、ようやく知ったか。あれは愚かな兄とは違って中々におもしろかったぞ。だが哀れよな――あれはお前が兄と気付いていた。レオン兄様のことを悪く言うな、と噛み付いて来たぞ」
「っ! 兄上、貴方は妹と知っていながら……!」

「何故です……何故、兄上…っ!!」
 悲痛に滲んだ声は、厳かな室内に静かに反響した。

「まだ……そんなことを言うか、愚弟よ……」

「ふ…はは……意味はある。お前に幕を引かれることにこそ、意味があるのだ……」

「スコルピオス兄上……アルテミシア…………エレフセウス」

「ならば私には、まだ戦う理由がある」





「あの馬鹿が……死んだ……?」

「何故……何故だ、オリオン…!!」

「復讐なんてそんなものっ…お前には似合わない!」

――ヤァ、息仔ヨ。失ウコトノ絶エ難キ痛ミニモ、モウ慣レタカイ…?

 心に暗い絶望が入り込んでくる。アルテミシア……オリオン……エレフセウスの大切なものは、もう何も残っていない。

「首を洗って待っているが良い――運命よ」
 挑戦的に天へと死の剣を突き上げ、西の空を見上げた。
 炎が赤く焦がす空は、血の色を映しているようにも見えた。





「我等アルカディオスの同胞たちよ! 運命は残酷だ……されど彼女を恐れるな! 女神が戦わぬ者に微笑むことなど決して無いのだから…!」

「――来たか、雷神の狗ども」


 レオンティウスには、一目で相手がアメティストスだということが分かった。そして同時に思う。
 ――似ている。


 自分に言い聞かせるような台詞に、闇からエレフセウスを呼ぶ声も大きくなったような気がした。
――嗚呼、早ク飲マレテシマエ。サモナケレバオ前ハ……――


「愛する者? ……それはアルテミシアのことか」

「そうだな――エレフセウス」
 疑問ですら無いその問いかけに、エレフセウスは自分の名を呼んだ仇を凝視した。

「私はお前たちの兄だ――エレフセウス」




 ――もっと にくみなさい あわれなるこよ――
(嗚呼、運命よ……っ!)
 ――ヤメヨ、息仔ヨ…!――



「運命よ……これが……貴柱ノ望ンダ世界ナノカ――!!」
 刃を隔てて対峙したのは……



どちらが欠けても、片方だけでは生きられない。
 双ツハヒトツ――