Sound Horizon [Moira]本  「白き朔

B5 44P ¥600 081228発行

Moira行間(勝手に)補完本。

「運命の双子」〜「遥か地平線の彼方へ」付近のストーリーを、
自分たちなりの解釈で掘り下げてみました。
夏頃発行予定の後編と対になる前編ですが、それぞれ単独でも問題ありません。



内容紹介




T「有明月」 未央小説/双子&両親・双子&スコルピオス
(「運命の〜」「奴隷市場」「死と嘆き〜」)

U「弓張月」 コロン漫画/双子&オリオン
(「死と嘆き〜」後)

V「夕月夜」 未央小説/ミーシャ&ソアィア・ミーシャ&レオン
(「聖なる〜」「雷神域〜」)

W「十六夜」 コロン漫画/エレフ&オリオン
(「遥か〜」後)





■十六夜■(左)  ■弓張月■(右) 
一部抜粋






■夕月夜■ 一部抜粋






 風神の怒りは雨女神と交わり、嵐女神を生む――
 運命は再び双子の手を別ち、その愛娘を己が神域へと誘う。

「アルテミシア……と言いましたね」
「は…はい」

 促されてそっと手を引かれながら、アルテミシアは戸惑いを深くしていた。
 エレフセウスに会いたいと魂が訴えるのは一度や二度では無かったけれど、その度に無駄な希望だと言い聞かせて蓋をした。

「神罰がくだったんです……」
 冷たい夜の海に投げ出される瞬間、エレフセウスと繋いでいた手は離れ離れになった……アルテミシアが覚えているのは、そこまでである。

 フィリスの部屋で目が覚めた時、アルテミシアの瞳にはただ闇だけが広がっていた。混乱したし、何も見えないことは怖くはあったけれど、光を失ったと気付いた時にも嘆いたりはしなかった。
 この穏やかな島での一日は奴隷の日々よりずっと優しかった。それに、またしてもアルテミシアの手から大切な温もりは離れてしまったのだ――例え目が見えていたとしても、暗闇の中に居るのと何ら変わらないような気がした。

 ――泣かないで、ミーシャ。
「……エレフ……」
 いつでも思い出せる声が頭の中で響き、アルテミシアの胸を温める。

「ミーシャ、恐れず揺るがず全てを愛す……そんな美しく咲き誇る女になりなさい」
「……はい、ソフィア先生」

 そして時が経ち、運命の糸は一人の青年を詩人の島へと手繰り寄せる。




「金色の獅子……?」
「君は、森の精か……?」

 転倒しそうになった所を体ごと支えられて、アルテミシアはおそるおそる目を開く。目の前にあったのは強欲な色では無く、驚くほど誠実で美しい金色の瞳――
「……金色の…お月さま……」
 眩く、それでいて温かいその色は、かつてアルカディアの泉で手を伸ばしたそれと同じ色をしていた。いつかあげるという幼い約束……エレフセウスとの大切な思い出――二人を繋ぐかけがえのない絆。
 じっと見つめたままのアルテミシアに苦笑したその人は、そっと体を起こして立たせてくれた。そして驚かせてすまなかったと一礼すると恭しく膝をつき、アルテミシアの手を取って額におし頂く。
「獅子でも月でも無い。私はアルカディアから聖女ソフィアに会いに来た者。勇者デメトリウスが仔・レオンティウスと言う――巫女殿」


 不意に、分かってしまったのだ。
 月と見紛うその瞳には、優しさと強い意思の奥に……泣きたくなるほど懐かしい光が揺れていた。


 ――雷を制すも者 世界を統べる王と成る――


「迷いは黄昏を呼ぶ……それは、雷槍を携え先陣を切る私には許されないことだ」


「レオン兄様……」

「ああ、エレフ……私たちの金色のお月さま、見つけたわ」